学歴と“腕”は関係ないと実感した体験
学歴が高い先生だからかかりつけ医として頼りになるかというと、必ずしもそうでもなさそうです。
いまから30年あまり前、私が東京郊外にあるNHKの宿舎に住んでいたときのことです。子どもたちと公園で野球をしていて、ボールを拾いに草むらに分け入ったときに、なんだか顔の皮膚に違和感を覚えたのです。
夜中にトイレに起きて鏡を見て驚きました。顔の左側が真っ赤に腫れて、まるでお岩さんのようではありませんか。
翌朝、すぐに近くの内科医院を訪ねました。某有名大医学部卒の先生が開業している医院です。ところが、いろいろと検査をしてくれるものの、原因が分かりません。
「どこも異常がない。分からないなあ。とりあえず薬を出しましょう」といって飲み薬をくれたのですが、2、3日してもいっこうによくなる気配がない。
困り果てて、別の外科病院を訪ねて診てもらうと、その先生は笑ってこう言うのです。
「草野さん、これはいくら飲み薬を飲んでも治りませんよ。草むらに入ったときに、アメリカシロヒトリの鱗粉(りんぷん)が顔にかかったようですね」
当時、アメリカシロヒトリという蛾が日本中で大発生して、連日ニュースになるほどでした。渡された塗り薬をつけると、徐々に腫れもひいていきました。
このおかげで、私は当時担当していたNHKの「ニュースセンター9時」のスポーツコーナーを2日休むはめになってしまいました。視聴者の方は、まさか私が蛾の鱗粉で皮膚炎になったとは想像もしなかったでしょう。
有名大卒の先生でも、得意不得意な分野はあるのでしょう。皮膚科の症状には慣れていなかったのかもしれません。いずれにしても、学歴と医師の“腕”は必ずしも比例しないと感じた経験でした。
(まとめ:二村高史=ライター)