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草野仁の「苔(コケ)ない男」

草野仁「仕事を家に持ち込もう」、その真意は?

第13回 スーパー司会者支える「ブラームス」「1人カラオケ」、そして…

クイズ番組や健康バラエティー番組の司会を中心に、第一線で活躍するキャスターの草野仁さん。70代を迎えてますます輝きを増す秘密はどこに隠されているのか。いつまでも“苔(コケ)ない男”であり続ける、草野流のスーパーエイジング術。今回のテーマは「ストレス解消法」だ。健康な体の維持には、精神の安定が欠かせない。ということで、いつも穏やかな草野さんに、感情コントロール法やストレス解消術について聞いたところ、「仕事を家に持ち込もう」という意外な答えが返ってきた。さて、その真意は?

若いころは「瞬間湯沸かし器」でした

 どうやら、私は落ち着いて穏やかな性格の人間に見られるようです。「草野さんは怒ることはあるんですか?」という質問を受けることもあります。

 いやいや、私だって人間ですから、ムッとしたり腹が立ったりすることはあります。ただ、年を経るにしたがって、そうした感情をコントロールできるようになったことは確かです。

 私の両親はしつけが厳しい人でしたが、私自身は4人兄弟の末っ子ということもあり、かなりわがままに育ってきました。もともと、すぐに感情が表に出る性格で、若いころは、ちょっとしたことですぐに怒りが爆発する「瞬間湯沸かし器」だったのです。

 とはいえ、職業人になったら、そうも言っていられません。とくに私のようなアナウンサーは、出演者や裏方さんたちをうまく立てて、切り盛りしていくのが大切な仕事です。

 もちろん、今でもたまにムッと感じることはありますが、それをストレートに顔に出すわけにはいきません。いったん心で受け止めてから、うまい反応をして乗り切らなくてはならないのです。

 私の場合、仕事柄そういう対処を必要とされるために、感情をコントロールする技が自然と身についたのだと思います。

気持ちが高ぶったときはブラームス

 もっとも、我慢するだけではストレスはたまる一方です。たまりにたまったストレスが原因で精神的、肉体的に具合を悪くしたり、ある日突然、感情が爆発したりという恐れもあります。

 そこで、私がどうやってストレスを解消しているのか、その方法をいくつかご紹介しましょう。

一番好きなのはブラームス。そのきっかけになったのは…。

 一つは、クラシック音楽を聴くこと。ゆったりとした交響曲を聴いていれば、1時間もかからずに心がほぐれます。高ぶった気持ちを鎮めて冷静さを取り戻すには、いい方法だと思います。

 私はモーツァルトもベートーベンも聴きますが、一番好きなのはブラームスです。そのきっかけになったのは、1961年に公開された『さよならをもう一度』という映画でした。原作は、フランソワーズ・サガンの『ブラームスはお好き』という小説です。

 舞台はパリ。主演のイングリッド・バーグマンは、デザイナーとして活躍している40歳の女性。そして彼女には、つかずはなれずの関係にある実業家のパートナーがいて、それを往年の名優であり名歌手のイブ・モンタンが演じていました。

 そこに現れたのが、ヨーロッパに法律の勉強にやってきた25歳のアメリカ人青年。これを演じたのは、若き日のアンソニー・パーキンスでした。やがて2人は深い関係になるのですが、バーグマンは悩みます。「このままでは、前途有望な青年の将来をダメにしてしまう」と。そして、彼と別れることを決断します。

 私は、多感な高校時代にこの映画に出会い、「人生はそんなものかなあ」「15歳の年の差くらいいいじゃないか」などとあれこれ思いながら、3回も観ることになりました。

 そして、この映画のバックに流れていたのが、ブラームスの交響曲第3番、第3楽章。これが、さまざまなアレンジで登場するのが素敵で、ブラームスが好きになるきっかけとなったのです。

1人カラオケでの採点機能でストレス解消

カラオケで95点以上をとると、爽快な気分になります。

 音楽を聴くだけでなく、自分で歌うのも私のストレス解消法の一つです。じつは私、1人カラオケもよくやっています。自宅近くと事務所のそばによく行く店があって、店の会員カードも持っています。レパートリーはもっぱら昭和の歌謡曲で、谷村新司さん、布施明さん、五木ひろしさん、チョー・ヨンピルさんの歌をよく歌っています。

 とくに私が気に入っているのが、音程の正確さだけでなく、リズムやしゃくり、ビブラートなども含めて得点を表示してくれるカラオケ機器。これで95点以上とると画面で祝福してくれるので満足感にひたることができ、ストレスも吹っ飛びます。めったに95点はとれませんが、毎回これを目標にして歌うのは張り合いがあります。

 また、カラオケは精神的によいだけでなく、カロリー消費にも効果があります。1曲歌うと7~8キロカロリーを消費すると表示されますので、1時間10曲あまりを歌うと、約100キロカロリー。この数字が正確だとすると、10分間のジョギング、25分間の散歩に相当しますから、馬鹿になりません。

 しかも、一人カラオケの料金は、飲み物がついて1時間でせいぜい1000円程度。安上がりでストレス解消できて、体にもいいという、一石二鳥どころか一石三鳥の効果があるわけです。

 そして、ストレス解消に何よりも大切なのは家庭円満だと私は確信しています。

 私の家庭では、夕食をとりながらその日の出来事を、腹が立ったことも含めて妻によく話しています。「こんなことがあってね」とか「きょう、アッタマに来たんだよ!」と本音で打ち明けるのです。

 すると、妻は「そうねえ」と同調してくれたり、具体的なアドバイスを与えてくれたりします。私は精神的に強くないので、こうした反応には本当に助かっています。話をするだけでも、体にため込むよりずいぶんいいと思います。

 つまり、私の最大のストレス解消法は、「仕事を家に持ち込もう!」ということなのです。

何でも言い合える円満な夫婦関係があれば、ストレスも怖くない!?

 確かに、仕事を家庭に持ち込まないことを美学にして、素晴らしい仕事をしている方がたくさんいらっしゃることも知っています。でも、よほど精神的に強い人でない限り、それで感情のコントロールをするのは難しいものです。

 まあ、気の合った仲間がいれば、それはそれでいいかもしれませんが、最後の最後に信頼できるのは、やはり家族です。そう考えれば、何でも言える円満な夫婦の関係こそが大切なのではないでしょうか。

夫婦の関係改善に遅すぎることはありません

 もっとも、私も偉そうなことを言えた立場ではありません。若いころは、ずいぶん妻に迷惑をかけたものです。なにしろ私は九州男児ですから、男性優位が当然と思って疑問にも思いませんでした。

 NHK時代に異動で鹿児島から福岡に引っ越ししたときには、若い妻と義母と乳飲み子2人をほったらかしにして、同僚に誘われるまま夜遅くまで引っ越し祝いのマージャンをやっていたことがありました。今のように、引っ越し業者がなんでもやってくれる時代ではなかったので、残された妻は大変だったようです。

 家庭サービスも、私はそれなりにしていたつもりでしたが、今思い起こすとまったくのおざなりでした。

 そんな私が変わったのが、NHKから独立してTBSと専属契約をして、朝の番組にレギュラー出演するようになったときのことです。私は毎朝3時に起きていたのですが、よくよく考えてみると、妻はもっと早く起きて家事をしていたわけです。そこから少しずつ感謝の気持ちが芽生えてきました。

 ご飯を食べると、「きょうは○○がおいしかったよ」と言うようになりました。昔の私からすれば驚くほどの変化です。そして、ようやく70歳を超えて、「ここ10年くらい、ようやくまともな亭主になった」というありがたい言葉を妻から頂戴しました。

 こんな私でも、少し心を入れ替えたことで、なんとかここまでになりました。ですから、どんな人でも遅すぎることはありません。男性の方には、ぜひ奥さんに対する感謝の気持ちを抱き、それを言葉や態度に表してほしいと思うのです。

 ストレスが体の不調や病気の大きな原因になることは広く知られるようになりました。とはいえ、現代社会ではストレスを減らすことはなかなか容易ではありません。そんな状況だからこそ、夫婦関係をもっと大切にしなければいけないと思うのです。

(まとめ:二村高史=ライター)

草野 仁(くさの ひとし)
キャスター
草野 仁(くさの ひとし) 1944年2月生まれ。1967年東京大学文学部社会学科卒業後、 NHK入社。鹿児島放送局、福岡局、大阪局を経て、東京アナウンス室へ。主にスポーツ・キャスターとして、五輪中継をはじめ、国内外のスポーツ実況中継を担当。また、「ニュースセンター9時」「ニュースワイド」のキャスターも務めた。1985年に独立しフリーに。以降、テレビやCMなどで活躍中。趣味・スポーツは、「映画鑑賞」「ゴルフ」「カラオケ」「競馬」「剣道(二段)」と多才。
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