社会が変わらないと自殺は予防できない
多くの精神疾患の患者はヘビースモーカーより寿命が短縮
大西睦子
精神疾患の治療を妨げる一番の問題は
これまでの研究では、精神疾患にかかる人のうち半数は14歳までに、そして4分の3が24歳までに発症すると言われています。ところが気分障害患者の場合、発症後、治療を受けるなどの助けを得るまでに、平均で6~8年が経過しています。不安障害患者の場合は、平均9~23年が経過しています。
National Center for Biotechnology Information「Failure and delay in initial treatment contact after first onset of mental disorders in the National Comorbidity Survey Replication.」
高血圧、糖尿病やがんなどの病気と同じように、精神疾患にも、早期発見、早期治療が重要です。ところが、それを妨げる障壁があります。
その最大の障壁が「偏見」だと、これまでの研究で示されています。
偏見は、否定的な誤った信念、または固定観念から生じます。多くの精神疾患で苦しむ人は、自分の病を打ち明けることで、世間の批判的な視線を浴びること、そして友達や名声を失うことを恐れ、なかなか打ち明けることができないといいます。
うつ病は個人の弱点であるという偏見や誤解があります。こうした偏見があると、精神疾患を患う人の多くが、自分一人で苦しんでしまっても不思議ではありません。そして苦しみを自分の中に閉じ込め、沈黙することにより、さらに孤独や羞恥心が高まり、治療から遠ざかることになります。
CDC「ATTITUDE TOWARD MENTAL ILLNESS」
精神疾患は平均寿命を大幅に縮めてしまう
英国オックスフォード大学の研究者らは、雑誌「World Psychiatry」に、精神疾患が、喫煙のように寿命を縮めることを報告しました。
World Psychiatry「Risks of all-cause and suicide mortality in mental disorders: a meta-review」
Oxford University「Many mental illnesses reduce life expectancy more than heavy smoking」
研究者らは、これまでの臨床研究の中から優位性の高い20本の論文(25万人の死亡者を含む、170万人以上の情報)の結果をまとめ、さらに分析しました。そして、さまざまな精神疾患における平均寿命や自殺による死亡のリスクを、ヘビースモーカーのデータと比較しました。結果は以下の通りです。
■双極性障害(※古い呼び名では「躁うつ病」) | 9~20年 |
■統合失調症(※古い呼び名では「精神分裂病」) | 10~20年 |
■薬物とアルコールの乱用 | 9~24年 |
■反復性うつ病性障害 | 7~11年 |
■ヘビースモーカー | 8~10年 |
多くの精神疾患は、平均寿命より大きく寿命が短縮していることが分かります。1日20本以上のタバコを喫煙するヘビースモーカーと同等、あるいはそれ以上の短縮リスクがあるのです。
オックスフォード大学の精神科のシーナ ファイゼル博士は、「こうした結果が出た理由には多くの可能性があります。ただ寿命が短縮するリスクの高い行動は、精神病患者では一般的で、とくに、薬物とアルコールの乱用は、自殺による死亡のリスクを高めます」とコメントしています。
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