社会が変わらないと自殺は予防できない
多くの精神疾患の患者はヘビースモーカーより寿命が短縮
大西睦子
食、医療など“健康”にまつわる情報は日々更新され、あふれています。この連載では、現在米国ボストン在住の大西睦子氏が、ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、論文や米国での状況などを交えながら、健康や医療に関するさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説していきます。
今回は精神疾患が寿命におよぼす影響について、論文を解説します。
20~24歳の死亡原因の51.7%が自殺という日本の現状

日本政府は、2014年版「自殺対策白書」を2014年6月に公表しました。これによると、2013年の自殺者数は、前年比575人減の2万7283人で、2年連続で3万人を下回りました。人口10万人当たりの自殺者数は、男性が30.3人、女性が13.0人、総数が21.4人です。
自殺者数の減少は、50歳代の自殺率が減っていることが大きな要因です。一方、15~39歳の若い世代では、男女総数の死因のトップが自殺となっています。20~24歳では、自殺が死亡全体の51.7%を占めています。こうした状況は国際的に見ても深刻で、15~34歳の若い世代で、死因の第1位が自殺であるのは、先進7カ国のなかで日本のみです。日本の15~34歳の死亡率は、人口10万人当たり20人で、米国の11.3人を大きく上回っています。
内閣府「自殺対策白書」
米疾病予防管理センターの情報によると、米国における2010年の自殺者総数は、3万8364人。2000年以降増加傾向で、2010年で、10万人あたり12.1人でした。男女比では、男性の自殺率が女性の自殺率の4倍でした。自殺率だけを比べると、日本より低めですが、やはり大きな社会問題になっています。
女性と若者の自殺未遂
米国では、男性が自殺で死亡する数は女性のケースの4倍ですが、自殺未遂となると、女性の数が男性の3倍になります。また、自殺死に対する自殺未遂の比率は若者の場合約1:25で、高齢者の場合の1:4と比較すると、自殺未遂率の高さが際立ちます。
死亡率の男女比については、男性の場合、銃やその他の致死性の高い自殺手段を選ぶ傾向があり、薬物や毒物を使用するケースが多い女性の方が自殺未遂率が高まるという背景を示してもいますが、近年は、女性も銃を使用するケースが増加しています。なお子どもや若者の場合、首つりと飛び降りが多くなります。
自殺で亡くなった人の90%が精神疾患で苦しんでいた
全米自殺防止財団(American Foundation for Suicide Prevention )によると、自殺で亡くなった人のうち、少なくとも90%は、精神疾患、とくにうつ病に苦しんでいました。うつ病の人が、絶望、不安、または激怒などの激しい感情の状態になると、自殺のリスクが高まります。衝動的に行動する人が、アルコールやドラッグを使用することも、自殺のリスクを高めます。
うつ病は複雑な病気で、原因はわかりません。幼児からお年寄りまで、すべての年齢層で発症します。遺伝的要因の関与も示唆されています。突然、予期せずにうつ病が発症する人もいますが、人生におけるポジティブ、あるいはネガティブな大きな変化に伴うこともあります。さらに、深刻な身体的な病気の発症後、特定の治療薬の使用、アルコール、ドラックなど、さまざまな要因がうつ病の原因となります。
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