“腸内細菌”が、食物アレルギーの新たな治療薬になる!?
日本でも食物アレルギーの児童が増加傾向に
大西睦子
食、医療など“健康”にまつわる情報は日々更新され、あふれています。この連載では、現在米国ボストン在住の大西睦子氏が、ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、論文や米国での状況などを交えながら、健康や医療に関するさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説していきます。
日本ではこの10年で食物アレルギーを発症する患者さんが増えています。特に子どもの間では深刻で、2013年12月に文部科学省が全国実態調査を実施し、「食物アレルギーの児童生徒は45万人(全体の4.5%)に上り、2004年の前回調査の約33万人(同2.6%)から急増」と報告されているほどです。
今回は、その食物アレルギーの治療に関する新たな研究を解説します。
日本人の全人口の1~2%は食物アレルギーを持っている

厚生労働省によると、正確な人数は把握できないものの、日本人の全人口の1~2%(乳児に限定すると10%)に、何らかの食物にアレルギーがあると考えられています。特にアレルギーの発生件数の多い「卵、乳、小麦、えび、かに」、そして症状が重くなることが多く生命にかかわることもある「そば、ピーナッツ」を含めた計7品目は、食品衛生法により、食品の表示義務があります。というのも、食物アレルギーには有効な治療法がないので、原因となる食品を避ける(除去する)ことが、治療や予防になるからです。
厚生労働省「食品のアレルギー表示について」
また、日本アレルギー学会は、乳幼児期に発症した「鶏卵、牛乳、大豆」は、年齢が高くなるに従い軽快することが多いものの、年齢が高くなってから発症した場合や、「そば、ピーナッツ、えび、かに」に対してアレルギー症状を起こした場合は軽快することが少ないとしています。
腸内細菌が食物アレルギーを予防する!?
米国ではどうでしょうか?
やはり、食物アレルギーは大きな社会問題になっています。3歳以下の子どもの6~8%、大人の3%が食物アレルギーを発症しているのです。
Mayo Foundation for Medical Education and Research「Food allergy Definition」
また米国の食物アレルギーの子どもの数も増加しており、1997年から2011年の間で1.5倍になりました。その原因について、これまでの研究では、近年の除菌し過ぎた生活環境や食習慣が、私たちの体に居る自然な細菌の組成を乱すためではないかと示唆されています。
先日、米国シカゴ大学の研究チームは、私たちの腸内に住んでいる細菌が、食物アレルギーを予防するという、非常に興味深い発見を、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)に報告致しました。
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America「Commensal bacteria protect against food allergen sensitization」
共著者キャサリン・ナグラー教授は、研究報告の中で次のように述べています。
「抗生物質の乱用、高脂肪食、帝王切開による出産、一般的な病原体の除去、さらには人工乳のような刺激など、人類とともに進化してきた体内の細菌叢(細菌の集合体)に影響を与えています。我々の研究結果からは、このことが食物アレルギー増加の1つの原因と考えられます」
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