グルテンフリーダイエットって誰が必要なの?
健常な人の減量効果には疑問の声も
大西睦子
グルテンフリーダイエットが必要な疾患その2:グルテン過敏症とは?
グルテン過敏症(あるいは非セリアックグルテン不耐症=nonceliac gluten intolerance)は、グルテンに対し過剰な免疫反応が生じる疾患です。セリアック病とは違い、自己免疫疾患ではありませんが、遺伝的要因に影響されやすいのが特徴です。
日本では、「PMSや慢性疲労、便秘などの症状がある原因不明の不調はグルテン過敏症が原因かもしれない」などと女性誌などで取り上げられてきているのでご存じの方もいるかもしれません。
一般的な症状は、ガス、腹部膨満感、下痢などの胃腸障害、疲労や頭痛などさまざまで(多くはセリアック病に類似)、ほとんどがグルテンフリーダイエットで改善します。
グルテンフリーダイエットが必要な疾患その3:小麦アレルギーとは?
小麦アレルギーはグルテンに限定されず、小麦そのものにアレルギー反応を示すものです。有病率は、欧米諸国で約0.1%と推定されています。
日本では化粧品に含まれていたことが原因で経皮感作による小麦アレルギーを発症した例が多発したことがありました。症状としては、じんましんや発疹、腫れなど皮膚に出てくるものと、皮膚だけでなく呼吸困難など全身の臓器に症状が出るアナフィラキシー(重いアレルギー反応)があります。
小麦アレルギーと診断された場合、小麦の摂取を避けます。
自閉症スペクトラムには有効?
グルテンフリーダイエットはまた、自閉症スペクトラム(autism spectrum disorders、ASD:広汎性発達障害を、重い自閉症からアスペルガー症候群まで、連続的にとらえた概念)の方々が、症状改善目的で利用しているとも言われます。
ところが、現在までのところ、ASDに対するグルテンフリーダイエットの有効性を支持する決定的なデータはなく、米国小児科学会は、ASDの一次治療としてグルテンフリーダイエットを支持していません。
その他、グルテンフリーダイエットで全身性エリテマトーデスや疱疹(ほうしん)状皮膚炎、過敏性腸症候群、関節リウマチ、1型糖尿病、甲状腺炎、および乾癬(かんせん)による全身や胃腸の症状が改善する可能性が報告されています。
“グルテンフリーダイエットで減量成功”は本当?
人気のグルテンフリーダイエットですが、セリアック病やグルテン過敏症以外で、減量の効果を支持する報告はありません。
ただし、セリアック病の方に関しては、グルテンフリーダイエットの効果として体重変化が挙げられた研究が多数あるのは事実です。とはいえグルテンフリーダイエットは、必ずしも低エネルギーという意味ではなく、またグルテンフリーの小麦粉やパスタなど、さまざまな除去食品はあるものの、そうしたグルテンフリー食品の中には、グルテン含有の同様の製品より高カロリーなものもあるのです。
さらに、グルテンフリーのダイエット食品の中には、全粒穀物より繊維が少ないものもあり、全粒穀物を摂取するよりかえって太る原因になりかねないと懸念されています。
小麦は胃腸の健康に良い
グルテンフリーダイエットや低炭水化物ダイエットの流行で“小麦製品=太る”ようなイメージを持つ方もいるようですが、本当にそうなのでしょうか?
実際、小麦は米国で最もよく消費される穀物で、典型的な食事中のフラクトオリゴ糖、イヌリンの約70%~78%を占めています。
フラクトオリゴ糖は、ショ糖に1~3個の果糖が結合した難消化性のオリゴ糖です。にんにく、アスパラガス、ねぎ、玉ねぎ、ごぼう、大豆などに多く含まれており、低エネルギーの甘味料にも使われています。フラクトオリゴ糖は腸内の善玉菌を増やして活性化させ、腸内環境を酸性に維持します。また免疫機能の強化、高脂血症の改善、便秘の改善、血糖値の抑制などの作用があるとされています。
イヌリンは、自然界においてさまざまな植物によって作られる多糖類の一群で、果糖の重合体(ポリマー)。栄養学的には、水溶性食物繊維の一種です。砂糖やほかの炭水化物に比較すると3分の1から4分の1程度のエネルギーしか含まず、脂肪と比べると6分の1から9分の1程度という、低エネルギー成分です。カルシウムの吸収を促進したり、腸内細菌の活動を増進させたりします。食事と腸内細菌の相互作用は大腸の健康に重要で、特定のがんや炎症状態、心血管疾患を予防するともいわれますから、大きなメリットといえます。
つまり、グルテンの含まれている小麦などの穀物には、グルテンそのものの健康への長所だけではなく、フラクトオリゴ糖やイヌリンなどによる利点もあるのです。