男性は何のために存在するのか?
性選択は、生物集団の健康と存続のために重要だった
大西睦子
生物は生殖で子孫を増やす
ご存じの通り、生物は生殖によって子孫を増やします。
生殖には「無性生殖」と「有性生殖」があります。無性生殖は例えばアメーバやイソギンチャクのように、1つの個体が分裂して増える方式で、親の遺伝子をそのまま受け継ぎます。また無性生殖では、子孫を急速に増やせます。
一方、人間を含めて多くの生物は、有性生殖によって子孫を増やします。有性生殖は、生殖細胞であるオスの精子と、メスの卵子が合体して、新しい生命をつくります。子どもは親から遺伝子を半分ずつ受け継ぎ、新しい遺伝子が誕生します。このため個体の形質はさまざまです。
生物学上は女性だけ存在するほうが効率的!?
有性生殖は、異性との出会いを見つけるために、多大な時間とエネルギーが必要です。それだけではなく、性行為による感染などの病気のリスクも負っています。しかもそれだけの労力を費やしても、出産できる娘(メス)が生まれる確率は半分しかありません。息子(オス)は精子を提供するだけですので、無性生殖でメスだけが生き残るほうが効率的ですし、非常に理にかなっています。
そうなると、ダーウィン博士が主張する性選択は、非効率的なのに、なぜ存続するのでしょうか? 今回、イースト・アングリア大学の研究者らが実験・調査したのが、この性選択で得られるメリットでした。
性選択の影響が強いオスは長生き!?
実験に用いたのは、ゴミムシダマシ科のコクヌストモドキ(Tribolium flour beetles)です。コクヌストモドキは、貯蔵農作物の深刻な害虫ですが、飼育が簡単で、遺伝子の機能の解析などの研究に有用な生物モデルです。
研究者らは、環境を一定に管理した実験室の中で、コクヌストモドキの集団の進化を10年間観察しました。
まずコクヌストモドキの集団を2つのグループに分け、それぞれの中で性選択の影響を強く受ける集団と、その影響が弱い集団に振り分けました。
■実験A:54世代にわたる比較
90匹のオス+10匹のメス VS 10匹のオス+90匹のメス
■実験B:45世代にわたる比較
一妻多夫(5匹のオスに1匹のメス) VS 一夫一婦(1匹のオスに1匹のメス)
その結果、実験Aでは性選択の影響を強く受ける(90匹のオス+10匹のメス)集団は、影響が弱い(10匹のオス+90匹のメス)集団より44%も長く生存しました。また実験Bでは、一妻多夫(5匹のオスに1匹のメス)は、一夫一婦(1匹のオスに1匹のメス)より、37%生存期間が長くなりました。
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