炭水化物って、本当に悪者なの?
ライフスタイルは何から改善すべきか
大西睦子
要するに、炭水化物=ブドウ糖を筋力アップに利用できるか、利用できずに脂肪にしてしまうかは、私たちのライフスタイル次第なのです。炭水化物を摂取する=すぐに脂肪になるわけではなくて、それを使うか使わないかが問題ということ。
しかも、「炭水化物がエネルギー化できない=運動できないんなら、炭水化物を摂らなければいいんでしょ」という、単純計算では済まないというのは、体内燃料カス問題で書いた通り。摂取カロリーが足りなければ、何かで代用しようとするのが人間の脳で、それが脂肪とタンパク質になってしまえば、体内燃料カスが増え、病気の原因になりかねないわけなのですから。
カロリーばかり気にしてもダメ
ところで、理想の体重を維持するにあたって、もし、「エネルギーのバランスが、(摂取カロリー)-(消費カロリー)=0 という単純な計算に従えばいい」というのなら、話は簡単なはずです。ところが、この古典的なエネルギーバランス方程式は、成立しません。
ダイエットでよくある間違いは、ほかのすべての要因を考慮せずに、方程式の両側(摂取カロリーと消費カロリー)だけで計算し、摂取と消費の差が3500kcal増減すれば、常に体重が約0.5kg増減すると仮定することです。
これについてはニュージーランドのオークランド大学のスインバーン・ボイド氏とエリック・ラヴーシン氏が研究し、何が起こるかを明らかにしています(*1)。これによれば、例えば75kgの男性が40年間毎日100kcal余分に摂取した場合、エネルギーバランス方程式に従えば、その総エネルギー量は150万kcalに等しくなり、この期間に190kgの体重増加が推定されます。ところが、現実にはそうはなりません。なぜなら実際は、多くの要因がエネルギーバランス方程式に影響を与え、最終的に体重を決定するからです。
エネルギー摂取に影響する要因
食べた量、食べた物の栄養素成分、食物繊維の摂取量、食べ物の種類、身体活動に関連した食事のタイミング、今の体重、食欲調節ホルモンなど
エネルギー消費に影響する要因
日常生活の活動量、身体組成、遺伝的背景など
例えば、激しい運動は食欲調節ホルモンを鈍らせ、エネルギー摂取量が減ることがあります。また、日常的に非常に活発なアスリートと、体をほとんど動かさない人では、同じ安静状態でもエネルギー消費量が違います。よく、“燃焼しやすい体作り”などという言葉を目にすると思いますが、それは間違いではないのです。
ですから、カロリーだけ計算してもダメなのです。大切なのは、健康的なライフスタイルです。
食事か運動か、ライフスタイルは何から改善すればいい?
スタンフォード大学医科大学院の研究者たちは、運動と同時に食事を改善した場合と、運動を改善する前後に食事を変えた場合に、どのような変化が起こるか調査しました(*2)。
答えは、当たり前ですが「食事と運動の両方の改善」が最も有効でした。

でも、もしどちらかを選ぶ必要があれば、まず運動から始めてください。食事から改善したグループは、身体活動の改善は認められませんでした。食事の改善が先行すると、かえって身体活動の改善が困難になるようです。対照的に、運動から改善したグループは、食事の改善も認められました。運動の改善が野菜や果物の摂取を大幅に改善し、飽和脂肪酸の摂取もわずかながら改善しました。
私たちにとって食べることは、毎日のスケジュールにありますから、食生活を変えると言っても、それほど余分な時間を工面する必要はありませんよね。ところが、運動を始めることは、忙しいスケジュールの中で、その時間を見つけなければなりません。ですから、この研究の結果を生活に組み込むのは、はじめは大変かもしれません。でも、マイペースでできることから、ぜひ始めてみてくださいね。
医学博士
