日経グッデイ

医学博士 大西睦子のそれって本当? 食・医療・健康のナゾ

チョコレートは罪な快楽? それとも健康食品?

ポリフェノールの効果を打ち消す糖分の取り過ぎに要注意

 大西睦子

食、医療など“健康”にまつわる情報は日々更新され、あふれています。この連載では、現在米国ボストン在住の大西睦子氏が、ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、論文や米国での状況などを交えながら、健康や医療に関するさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説していきます。
甘みが恋しくなると、つい手が伸びるチョコレート。虫歯や肥満のもとなどと問題視される一方で、健康に良いという話も耳にします。実際のところはどうなのでしょうか。

チョコレートには高血圧や心血管疾患、認知症などの予防に良い効果も!?(©Monika Adamczyk/123RF.com)

 ダークチョコレートやココアは、とても魅力的ですね。最近ではそのおいしさだけでなく、高血圧や心血管疾患、認知症などの予防に良い効果があるなどといった、健康面からの注目が高まっていますが、実際はどうなのでしょうか?

 米国ミシシッピー大学医学部の研究者らが、2003年から2013年に発表された研究をまとめました。その報告内容をご紹介しましょう。

ポリフェノールのフラバノール?

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Chocolate--guilty pleasure or healthy supplement?

 日本では高ポリフェノールをうたうさまざまなチョコレート菓子が人気になっていますが、ではポリフェノールとは何か、ご存じでしょうか?

 ポリフェノールは、植物性食品の色素や香り、苦味、辛味などの化学成分である「フィトケミカル」の一種です。ポリフェノールは、すでに明らかになっているだけでも、約8000もの物質の総称です。そのなかで、化学構造に応じて、さまざまなグループに分類されています。例えば植物エストロゲンともいわれるイソフラボンやスチルベン(特に心血管疾患発症のリスクを減らし、寿命を延ばすなどと話題のレスベラトロール)、フラバノール(認知症のリスク軽減への関連などが話題)などが代表です。

 このうちフラバノールが、チョコレートやココアの主原料となるカカオ豆には豊富に含まれているわけです。

 カカオ豆の学名はテオブロマ・カカオ(Theobroma cacao)で、ギリシャ語の「テオ(神)」+「ブロマ(食べ物)」を合わせた言葉です。つまり「神の食べ物」という意味を持つことになります。人類がココアを消費するようになったのは紀元前1600年と言われています。16世紀にはメキシコ中央高原の国家、アステカの皇帝モンテスマが「疲れと戦う神の食べ物」だと、熱心なココア崇拝者になっていたようです。それだけ古くから愛されてきたとなると、やはりその効果には期待してしまうでしょう。

 以下の表(出典:Circulation. 2009;119:1433-1441)は、主な食べ物とフラバノールの含有量です。

フラバノール含有量
食品 フラバノール含有量
(mg/kg あるいは mg/L)
チョコレート 460-610
350-550
アプリコット 100-250
チェリー 50-220
50-140
ブラックベリー 130
りんご 20-120
緑茶 100-800
紅茶 60-500
赤ワイン 80-300
(出典:Circulation. 2009;119:1433-1441)

 ではフラバノールが豊富なチョコレートやココアを摂取すると、心血管系の病気の予防になるのでしょうか?「快楽は罪ではない!」と喜んでいいのでしょうか? 残念ながら、結論を出すには少し早すぎるようなのです。もう少し深く考えてみましょう。

心血管系疾患に対する、ココア、チョコレートの影響

 そもそもこの関心は、パナマ共和国のサンブラス諸島に住むクナインディアン(Kuna Indians)と呼ばれる人々の観察研究から始まりました。

 クナインディアンは、加齢に伴う高血圧や動脈硬化に悩むことがありません。ただし、パナマ市とその近郊に移住したクナインディアンは、加齢とともに血圧が上昇し、高血圧の有病率は西洋人に匹敵します。実はこの差がクナインディアンの遺伝よりも、食生活、特にココアの摂取にあると、ハーバード大学医学部ノーマン・ホレンバーグ医師らが報告しました。

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Hypertension, the Kuna, and the epidemiology of flavanols.
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Vascular action of cocoa flavanols in humans: the roots of the story.

 サンブラス諸島に住むクナインディアンは、平均して1日5杯、移住組クナインディアンの10倍の量、成分未調整のココア飲料を摂取しています。また島に住むクナインディアンは、移住したインディアンと比較すると、塩分の消費量は同等、あるいはそれ以上で、BMI(Body Mass Index:体格指数)に有意差はありませんでした。

 このことから、クナインディアンがココアを摂取するという生活習慣が、彼らの健康に影響していると考えられたわけです。

フラバノールの含有量

 ココアの心血管系疾患に対する予防効果は、ココアに含まれるフラバノールが、血管内皮の機能を高めるからだと考えられています。

 ただしフラバノールの含有量は作物の品種タイプ、収穫後の処理、および加工技術に依存するため、同じココアでも製品によってフラバノールの比率がかなり異なるのです。

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Flavanol and flavonol contents of cocoa powder products: influence of the manufacturing process.

 新鮮なカカオ豆や、醗酵したカカオ豆には、約10%のフラバノールが含まれています。

 カカオ豆を加工したココアパウダーには約3.6%のフラバノールが含まれ、クナインディアンが消費しているのはこのピュアなココアパウダーです。

 一方、市場にはフラバノールは苦いため西洋人の口に合わないからと、風味が調整されたものが出回っています。例えば、120℃までの高熱とアルカリ化による「ダッチング」という処理で溶けやすく味をマイルドにしたり、嗜好性を向上させるために砂糖、牛乳、バニラ、および乳化剤などを加えた、成分調整ココアが売れているのです。こうした成分調整ココアをたっぷり使ったダークチョコレートのフラバノール含有率は、わずか約0.5%です。ミルクチョコレートやホワイトチョコレートには、フラバノールは低いか含まれていません。

 フラバノールが含まれていないとなれば、当然、本来のココアが持つ心血管疾患や高血圧への利点も残っていないのです。

 成分調整ココアに比較すると、チョコレート菓子やココア飲料におけるココアの割合からしても、製品中のフラバノール含有量を保証するものではないと分かります。ココア70%のチョコレートバーが、製品によって全く異なるフラバノール含有量になり得るわけです。

フラバノールの作用

 では、実際にチョコレートやココアを摂取すると、どのような影響があるのでしょうか? チョコレートやココアに含まれたフラバノールは、身体に良い影響を与えているのでしょうか?

【1】血圧、心血管疾患

 生体内で合成され、さまざまな機能を持つ窒素酸化物の1種である一酸化窒素は、血管内皮細胞から作られます。この一酸化窒素が、血管の健康状態を維持する血管内皮機能を調節しています。フラバノール含有量の高いココアを摂取すると、一酸化窒素が増え、血管拡張(血圧低下)、血小板凝集抑制(抗動脈硬化)などにつながります

 いくつかの研究により、心血管疾患のリスク因子を有する患者さんが、フラバノール含有量の高いココアドリンク(176-185mg)を摂取すると、一酸化窒素の循環レベルが急速に、ココアドリンクを飲む前の3分の1以上、増加したと報告されています。また、ココアのフラバノールには活性酸素の発生やその働きを抑制する抗酸化効果もあり、市販のダークチョコレート(74%ココア)40g摂取の2時間後に、血液中の抗酸化状態の大幅な改善が報告されています。

 また、いくつかの比較試験で、ダークチョコレートが高血圧患者の血圧に与える影響が調査されており、2003年、2005年の報告では、対象者を2群に分けて調査。ダークチョコレート100gを食べるグループと、90gのフラバノールを含まないホワイトチョコレートを食べるグループに分けた結果、ダークチョコレートを摂取したグループは、2003年時は収縮期血圧5.1+/-2.4mmHg、拡張期血圧1.8+/-2.0mmHg、2005年時は、収縮期血圧11.9+/-7.7mmHg、拡張期血圧8.5+/-5.0mmHgと、数値の低下が報告されました。ホワイトチョコレートを食べたグループは血圧が下がりませんでした。

 ところが一方で、効果が認められなかったという研究も報告されてきています。

 そこで2012年に、それまでの20の研究のメタ分析(複数の研究結果、研究データを計算してまとめる手法)が行われ、その結果、平均、収縮期血圧2.77mmHg、拡張期血圧2.20mmHgの低下が認められました。

 一般的に、収縮期血圧3mmHgの低下で8%の脳卒中の死亡率、5%の冠動脈疾患の死亡率、4%の全死因の死亡率のリスクが低減すると推定されています。

【2】インスリン抵抗性、認知症

 フラバノールは、インスリン抵抗性を減らすことが期待されています。

 フラバノールが豊富なココア100gを含む食事を15日間続けた高血圧患者の調査では、インスリン抵抗性が低下したことが報告されています。インスリンは脳機能の調節に重要な役割があり、認知機能障害の一因として考えられています。

 フラバノールを少なくとも520mg、毎日摂取している高齢者は、認知能力の大幅な改善を示し、インスリン抵抗性の減少との関連が分かりました。つまり、フラバノールの摂取は、心血管の健康と認知機能を改善する可能性があるのです。

【3】注意事項

 ほとんどの市販のカカオ製品は、たくさん摂取すると、飽和脂肪酸や糖分により、カロリー(500kcal/100 g)の摂り過ぎになります。そして、カカオのプラスの効果を打ち消すほどの、体重増加や血糖の上昇を招きます。

【4】副作用

 チョコレートは胃腸の症状、片頭痛やイライラ感を引き起こすと報告されていますが、これらの副作用は、臨床試験で実証されていません。また、チョコレートはカフェインが含まれているため、頻脈性不整脈、睡眠障害のリスクを高める可能性がありますが、普通の量を単独に摂取してもカフェインの量は問題になりません。


 以上から、チョコレートは健康食品ですが、市販のチョコレートの食べ過ぎは、カロリーの過剰摂取となり、メリットがなくなります。特に肥満の方にとって、チョコレートは罪な快楽として懸念されています。

 一方、バランスの取れた食事に、ヘルシーなダークチョコレートを組み合わせることは、おいしい健康食品として、おすすめですよ。

大西睦子(おおにし むつこ)
医学博士
大西睦子(おおにし むつこ) 東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。
日経トレンディネット2014年12月19日付け記事からの転載です。