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医学博士 大西睦子のそれって本当? 食・医療・健康のナゾ

流行のダイエット、本当に効果はあるの?

低炭水化物ダイエットには落とし穴も

 大西睦子

 食、医療など“健康”にまつわる情報は日々更新され、あふれています。この連載では、現在米国ボストン在住の大西睦子氏が、ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、論文や米国での状況などを交えながら、健康や医療に関するさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説していきます。
 第1回は、次々移り変わる「流行」のダイエットについて。

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一時的に流行った朝バナナダイエット(©Maksym Narodenko/123RF.com)

 「ファドダイエット=fad diet」という言葉、お聞きになったことはありますか?

 「fad=一時的な流行、気まぐれな熱狂」という意味から、メディアなどで一気に盛り上がり流行になっているような話題のダイエットのことを、米国ではこう呼びます。例えば、血液型ダイエット、キャベツスープダイエット、デトックスダイエット、グレープフルーツダイエット、卵ダイエット、マクロビオティック、パレオダイエット、朝バナナダイエット、低炭水化物ダイエット、低脂肪ダイエットなど、ファドダイエットに分類される“ダイエット”はたくさんあります。すでに流行が去った懐かしい名前のダイエットもありますよね。

 こうしたファドダイエットの基本は、「特定の食品を排除する制限食」で、「簡単ですぐに痩せる」と提唱していることです。

 確かに、ファドダイエットをやってみると、短期間は減量効果が見られます。ある食品を食べることを止める、あるいは特別な食べ物の組み合わせを食べることで、私たちが普段食べている食事より、カロリー摂取が減るからです。ところが、短期間で減るのは、脂肪ではなく水分や筋肉です。そして多くの人が、制限食は長く続けられず、もとの食生活に戻り、そして短期間で減った体重ももとに戻ります

 またファドダイエットは、食品の選択を制限するので、ほとんどの場合、栄養不足になります。そのため、失われた栄養素を補うために、毎日サプリメントをとることが推奨されます。サプリメントだけでは、私たちの体に必要なすべての栄養素は摂取できません。

ファドダイエットが有効なら、米国の肥満問題は解決している!

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米国人の7割近くが肥満(©bowie15/123RF.com)

 大手市場調査会社マーケットデータによると、肥満大国米国の総ダイエット市場は、2006年に554億ドル(5.7兆円)規模と推定され、2010年になると687億ドル(7.1兆円)規模にまで成長していました(関連情報)。市場に参入する多くのダイエット関連企業は、ファドダイエットを利用し、利益を得てきました。

 現在米国では、BMI(Body Mass Index:体格指数)が30以上の人口の割合は36%です。1970年の15%から、約2倍も増加ました。BMIが25以上の人口の割合は68%で、日本の基準にすると、米国人の7割近くが肥満という計算になります(関連情報)。

 ダイエット市場が成長しているのに肥満人口が増え続けているということは、ファドダイエットが肥満防止の解決にはまったくなっていないということでしょう。まぁ、肥満の人が増えればダイエット関連企業の利益はさらに増え続けるわけですが。

「炭水化物は悪」なダイエットが名前を変えて複数存在

炭水化物の摂取を制限するダイエットが多い(©lightwise/123RF.com)

 さて、ファドダイエットは名前が違っていても、似たようなものが多くあります。例えば、低炭水化物ダイエットに分類されるダイエットには、「アトキンス ダイエット」、「ゾーンダイエット」、「シュガーバスターズ」、「プロテインパワー」などがあります。炭水化物制限の厳しさが異なりますが、「炭水化物は悪」という概念は同じ、低炭水化物ダイエットグループです。

 では実際のところ、低炭水化物ダイエットに効果はあるのでしょうか?

 例えば、2012年にボストンの研究者らが、低脂肪ダイエット、低GIダイエット(同じ炭水化物でも、GI値の低い食品を選ぶもの)、そして超低炭水化物ダイエットの3種類の食事制限のうち、長期にわたって体重減少を維持するのにどれが有効かを比較検討しました。その結果、超低炭水化物ダイエットは、エネルギー消費やメタボリック症候群に対しては最も良い影響を与えましたが、心血管疾患の合併や慢性の炎症を増加するリスクがありました。

 結局、バランスのとれた食事を食べ、定期的に運動することが、一番優れたダイエットになります。

崩れた「21日ルール神話」

 そこで、「よし!今日からダイエットを始める!」と決意されたあなた。では、新しい習慣を身につけるのに、どのくらい時間がかかると思いますか?

 新しい習慣は21日で身につくという「21日ルール神話」があるのはご存じでしょうか。その真価について、英国ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(University College London, UCL)の科学者が96人を対象に調査を実施しました。これによると、習慣が身につくまでの平均日数は66日で、18日から254日まで個人差が出たといいます。当然、より複雑な行動は習慣化するまでに時間がかかりました。例えば、毎朝コップ1杯の水を飲むというようなシンプルなものに比べて、定期的な運動の習慣づけはかなり大変ということです。

■参考文献
Wiley Online Library「How are habits formed: Modelling habit formation in the real world

 毎日何となくやっていることの積み重ねが、私たちの人生に大きく影響します。

 健康的な食事を心がけてアクティブにしている人は、自然と引き締まった体型になり、ファストフードばかり食べてじっとしている人は、余分な脂肪が体に蓄積します。

 思考も同じで、習慣化するものです。前向きに考えられる人はイキイキと楽しそうで、ネガティブになりがちな人は何をやってもつまらなそうです。もし、私たちが今の状況を改善したいなら、悪い習慣を克服するしかないでしょう。

 まず新しい習慣を、少なくとも2~3カ月は続けてみてください。かかる時間に個人差はあっても、自分の中での変化はやがて、他人にも分かるほどの変化になりますよ。

大西睦子(おおにし・むつこ)
大西睦子(おおにし・むつこ) 医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。
日経トレンディネット2014年3月7日付け記事からの転載です。