バター不足で考えた! どの脂質が身体に良い?
50年以上続く米国の「脂質闘争」を振り返る
大西睦子
食、医療など“健康”にまつわる情報は日々更新され、あふれています。この連載では、現在米国ボストン在住の大西睦子氏が、ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、論文や米国での状況などを交えながら、健康や医療に関するさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説していきます。
2016年5月、農林水産省はバター6000トン、脱脂粉乳2000トン、練乳500トンの追加輸入をすると発表しました。バターの追加輸入は3年連続です。バターの品薄問題は以前から話題になっていますが、では、栄養素的にはバターが不足すると、どんな影響があるのでしょうか? 他の脂肪に置き換えることはできないのでしょうか?
栄養素的に、バターは他の脂質で代用できる?

三大栄養素の1つである脂質は、私たちの健康にとって、なくてはならないものです。脂質は細胞膜やホルモンを作る材料となり、主要なエネルギー源として貯蓄され、脂溶性ビタミンの吸収を助けます。
さて、日本ではバターの品薄が続いています。バターは脂質の供給源の1つですが、バターを食べていないでいると、私たちの健康にどのくらい影響があるのでしょうか? バターを他の脂質に置き換えることはできないのでしょうか?
残念ながら、この質問の答えは単純ではありません。実は脂質異常症、心臓病、肥満、糖尿病などの生活習慣病が深刻な問題である米国では、バターなどの脂質の健康的な摂取の方法に関して、長い間「脂質闘争(Fat Wars)」と呼ばれる議論が続いています。
この議論を理解するために、ハーバード大学公衆衛生大学院の、以下のサイトの情報を参考に、脂質闘争の歴史を振り返ってみたいと思います。
Harvard T.H. Chan School of Public Health「Is butter really back?」
そこでまず、整理しておきたいのが、脂質の分類です。以下にまとめてみましょう。
【脂質の分類 1】飽和脂肪酸
バターやラードなど、肉類や乳製品の動物性脂肪に多く含まれ、常温では固体で存在しています。
【脂質の分類 2】不飽和脂肪酸
魚類や植物油に多く含まれ、常温では液状で存在。不飽和脂肪酸は、さらに一価不飽和脂肪酸と、多価不飽和脂肪酸の2種類に分類されます。
このうち一価不飽和脂肪酸とは、オリーブ油に多く含まれるオレイン酸などです。
多価不飽和脂肪酸は、体の中で合成できないため、食べ物からとらなければならない必須脂肪酸になります。多価不飽和脂肪酸は、オメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸に分類されます。
多価不飽和脂肪酸のオメガ3系脂肪酸は、魚油に多く含まれるイコサペンタエン酸(IPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、えごま油やなたね油などに含まれるα-リノレン酸などのこと。またオメガ6系脂肪酸は、大豆油やコーン油など一般的な植物油に多く含まれるリノール酸などのことです。
【脂肪の分類 3】トランス脂肪酸
常温で液体の植物性油に水素添加をして人工的に製造された固形の油。マーガリン、ファーストフード、インスタント食品などに含まれています。