バター不足で考えた! どの脂質が身体に良い?
50年以上続く米国の「脂質闘争」を振り返る
大西睦子
異なる意見
そして今、2014年3月、英国ケンブリッジ大学のラジヴ・チョードゥリー(Rajiv Chowdhury)博士らによる、米国内科学会誌「Annals of Internal Medicine:AIM」に報告された論文を契機に、脂質闘争が再燃しています。
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Association of dietary, circulating, and supplement fatty acids with coronary risk: a systematic review and meta-analysis.」
心血管疾患に対する食事のガイドラインにおける「飽和脂肪酸の摂取を制限し、多価不飽和脂肪酸を多く消費する」という推奨に対し、チョードゥリー博士らが、「これを支持する証拠はない」という結論を下したのです。
多くの米国メディアは「飽和脂肪酸は悪者ではない」「飽和脂肪酸の摂取は心臓病と無関係」「バターが帰ってきた」などと報道し、大騒ぎになりました。
The New York Times「Butter Is Back」
同時にこの報告に対して、多くの専門家の批判が始まりました。例えば、ウィレット教授は、「この分析は、複数の大きな間違いや見落としがあり、この結論は深刻な誤解を招くため無視するべき」と警告しています。
Harvard T.H. Chan School of Public Health「Dietary fat and heart disease study is seriously misleading」
バターは魚や植物性の脂質に置き換える
以上のように、過去50年間にわたり脂質闘争は続いています。専門家によっても意見が異なる場合もあり、やはりこの質問の答えは単純ではありません。
ただし、ハーバード大学公衆衛生大学院の情報によると、ほとんどの科学者が同意する部分もあります。それが、以下の4項目になります。
[1]多価不飽和脂肪酸が豊富な食品の摂取は、心疾患のリスクが低下し、インスリン抵抗性を予防する。
[2]精製された炭水化物で飽和脂肪酸を置き換えても、心疾患のリスクは減らない。
[3]オリーブオイル、キャノーラ油、大豆油やナッツは、飽和脂肪酸を含むが、不飽和脂肪酸も多く含みヘルシーな脂質である。
[4]オメガ3およびオメガ6脂肪酸は、細胞膜の材料や、脳や神経の機能の維持などに必須。魚、ナッツや植物油などの様々なヘルシーな食品を摂取するべき。
つまり、米国の脂質闘争の教訓は、バターやラードなど、肉類や乳製品の動物性の脂質を、魚や植物性の脂質に置き換えることは、より健康上の利益があるということです。脂質を砂糖や炭水化物に置き換えることはNGです。むやみに低脂肪、無脂肪の加工食品を選んだりするのではなく、ぜひ、毎日の食生活を見直してくださいね。
医学博士
