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医学博士 大西睦子のそれって本当? 食・医療・健康のナゾ

バター不足で考えた! どの脂質が身体に良い?

50年以上続く米国の「脂質闘争」を振り返る

 大西睦子

すべての脂質が敵というわけではない

 1970年代になると、例えば多価不飽和脂肪酸は、悪玉(LDL)コレステロールを減少させ、善玉(HDL)コレステロールを上昇させるなど、種類が異なる脂質は、血中コレステロールに対して与える影響も異なると、キーズ博士やその他の多くの研究者らが報告するようになりました。

 そして1990年代初頭には、ハーバード大学公衆衛生大学院のウォルター・ウィレット(Walter Willett)教授らが、トランス脂肪酸こそが、悪玉(LDL)コレステロールを増やし、善玉(HDL)を減らす、心疾患の大きなリスクになる脂肪だと結論づけました。同時に、世界中の科学者たちが、バターやラードなどの飽和脂肪酸が、悪玉(LDL)コレステロールと善玉(HDL)コレステロールの両方を増加させること、健康に対しては多価不飽和脂肪酸のような利益がないと示すようになりました。

 つまり、これまでに示された多くの研究で、「すべての脂質が敵なわけではない」という結果が示されているのです。

単純化しすぎた米食生活ガイドライン

 こうした研究結果があるにもかかわらず、1980年代、1990年代の米食生活のガイドラインでは、総脂肪摂取量を減らすことに焦点が絞られました

 例えば、ヘンリー・J・カイザー・ファミリー財団(The Henry J. Kaiser Family Foundation)は、1987年にLEAN(Low-Fat Eating for America Now:米国のための低脂肪食)と呼ばれるキャンペーンを始め、食事中の総脂肪摂取量を30%に減らすようにうながしたのです。このメッセージは広告やスーパーマーケットの販売促進で一気に広まりました。

 また同時期に食品業界では、メーカーが食品から脂肪を除去し、砂糖と精製された炭水化物に置き換える商品を次々に発売しました。無脂肪サラダドレッシング、無脂肪アイスクリーム、低脂肪クッキーなどがスーパーマーケットの棚にたくさん並ぶようになり、その結果、米国人の砂糖や精製された炭水化物の摂取量が増加しました

 砂糖や精製された炭水化物の過剰摂取は、当然、肥満や糖尿病、心疾患などのリスクを増やします。

専門家が必死に努力するも、肥満問題は悪化

 1997年になると、ハーバード大学公衆衛生大学院のフランク・フー(Frank Hu)博士が、「New England Journal of Medicine」誌に、8万82人の女性を対象にした画期的な疫学研究を報告しました。

 それが、摂取する飽和脂肪酸のわずか5%を不飽和脂肪酸で置き換えると、なんと42%も心疾患のリスクの1つが減少すること。またトランス脂肪酸をわずか2%不飽和脂肪酸に置き換えるだけで、53%も心疾患のリスクの1つが減少するというものです。つまり、やはり重要なのは総脂肪摂取量ではなく、脂質の種類だったのです。

 この報告はメディアでも報道されましたが、「低脂肪ダイエット」は、すでに多くの米国人の食生活に定着していました。残念ながら質の良い研究報告でも、多くの米国人のバイアスを変えることはできませんでした。

 その後も「低脂肪」「無脂肪」をうたう砂糖や炭水化物に置き換えた、おいしい食品の消費は増え続け、それに伴い米国人の肥満問題がさらに悪化していきました。

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