バター不足で考えた! どの脂質が身体に良い?
50年以上続く米国の「脂質闘争」を振り返る
大西睦子
脂質闘争、勃発! 米国で脂質が健康の敵となった日
では、脂質闘争とはなんでしょうか?
食事をおいしく食べやすくするため、大昔から多くの人に愛されてきた脂質が、米国人の健康の敵となったのは、1961年1月13日と推測されます。この日、米ミネソタ大学のアンセル・キーズ(Ancel Keys)博士が、雑誌「タイム(TIME)」の表紙を飾り、大きな話題となったのです。
キーズ博士は第二次世界大戦後から、食生活と健康、特に心疾患との関係に着目するようになりました。当時、心疾患は米国人の主要な死因でしたが、その原因が究明されていなかったのです。
そこでキーズ博士は、日本を含む7カ国の国民のライフスタイルと心疾患のリスクの調査(Seven Countries Study)を行い、その結果、冠状動脈性心疾患の罹患率や死亡率は、各国間で十倍も違うことがあることを示しました。
1950年代に始まったこの研究は、今日でも続いています。
Ancel Keys「The Seven Countries Study」
さらにキーズ博士は、飽和脂肪酸の摂取量と、地域ごとの心疾患の発症率との関連性を見いだしました。一方で、総脂肪摂取量と心疾患の発症率には関連性がないことも分かりました。例えば、心疾患の発症率が最も低いクレタ島の総脂肪摂取量は、当時心疾患発症率が最も高かったフィンランドと同じだったのです。このことから、キーズ博士は、飽和脂肪酸を多く摂取する国で、心疾患に苦しむ人が多いと結論づけました。
キーズ博士の初期の報告では、因果関係まで証明できず、さらなる研究の必要性が示唆されました。実際、その後多くの研究によって、総脂肪摂取量は心疾患には影響しないことが証明されたのです。
- 次ページ
- すべての脂質が敵というわけではない