“睡眠負債”は、週末に返済できる?
眠気は戻っても注意力、集中力は回復しない
大西睦子
食、医療など“健康”にまつわる情報は日々更新され、あふれています。この連載では、現在米国ボストン在住の大西睦子氏が、ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、論文や米国での状況などを交えながら、健康や医療に関するさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説していきます。
多忙なビジネスパーソンのなかには週末に“寝だめ”するという人も多いでしょう。睡眠不足は本当に寝だめで解消できるのでしょうか? 今回は、睡眠不足が人に与える影響について解説していきます。
睡眠負債ってなに?

米国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の国立心肺血液研究所(National Heart, Lung, and Blood Institute:NHLBI)によると、高齢者を含めて成人は、1日平均7~8時間の睡眠が必要です。
ところで、睡眠負債ってご存知ですか?
日々の睡眠不足が加算され、その結果蓄積した総睡眠不足時間は、睡眠負債と呼ばれます。例えば、平日に毎晩2時間、睡眠が足りなければ、6日後の週末には10時間の睡眠負債を抱えることになります。
では平日に貯まった睡眠不足は、週末にたくさん寝ることで挽回(ばんかい)できるのでしょうか?
米ペンシルバニア州立大学の研究者らは、30人の健康な成人男女(平均年齢24.7歳、平均BMI23.6)を対象に、13泊の睡眠実験を行いました。
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Effects of recovery sleep after one work week of mild sleep restriction on interleukin-6 and cortisol secretion and daytime sleepiness and performance.」
対象者はベースライン(基準値)を作るため、最初の4夜は8時間睡眠で過ごしました。このベースラインに基づき、評価項目の正常な値を設定し、その後の6夜は1日につき6時間睡眠、続く3夜は回復のため1日につき10時間睡眠で過ごしました。これは多くの方が実際に生活しているときの、睡眠負債のモデルパターンになります。
実験は、以下の項目により評価します。
- 1.日中の眠気
- 2.注意力
- 3.炎症マーカー(血液中インターロイキン6〈IL-6〉の濃度):IL-6の増加は、インスリン抵抗性、心血管疾患、および骨粗鬆症に関連。
- 4.ストレスホルモン量:コルチゾール(副腎で生成されるステロイドホルモン。ストレスに反応して増加)を測定。
血液検査は、ベースライン期間終了日(実験4日目)、6泊の睡眠制限期間終了日(実験10日目)、そして2泊の回復睡眠期間終了日(実験13日目)に行います。
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