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医学博士 大西睦子 食・医療・健康のナゾ

大気汚染で認知症リスク高まる? 米国で大論争

研究は過渡期ながらも、大気汚染がいい影響を与えていないことは明らか

 大西睦子

やはり、リスクは一つではない

 こうした以前からの研究・調査があるうえに、今回のカナダの研究グループによる発表があったとなると、「大気汚染は認知症を悪化させる」と結論付けられてもおかしくなさそうですが、調査の欠点も指摘されています

 例えば英国国民サービスは「大気汚染の健康への悪影響に関する重要かつ大規模な疫学研究です。政府と保健当局は、大気汚染に取り組むための計画を立てたり、道路や住宅の建築を計画する際には、この研究結果を考慮するべきで、幹線道路の近くに住んでいる人は、幹線道路から離れた道を歩いたり、公園や裏通りで運動したりできれば、汚染への曝露が減ります」と調査を受けての対策を提案しつつ、「ただし対象者が、ある時点でどこに住んでいたかだけ(1996年に、幹線道路からどの程度近くに住んでいたか)を見ているので、調査期間中12年間の道路騒音や大気汚染への曝露量がどれほどであるかは不明。また個々人の行動リスクが結果にどう影響しているのかも不明」と指摘。「混雑した道路の近くに住む人々は、静かな地域に住む人々よりも運動不足かもしれない」という点も見逃せないといいます。

 また米メディア「CNN」は専門家にコメントを求めていますが、やはり欠点の指摘が目立ちます。まずモンタナ大学のガルシデューナス博士は「この発見により大気汚染が人の健康にどのように影響するかについて理解が深まりますが、交通による大気汚染は複雑であり、さらなる洞察が必要」と回答。アルツハイマー病を研究する英慈善団体「アルツハイマーズ・リサーチUK:Alzheimer’s Research UK」の最高科学責任者であるデイビッド・レイノルズ博士は、「この研究では認知症のリスクとして幹線道路の大気汚染物質を特定していますが、この研究だけでは確定できません。大気汚染物質が認知症の原因だという確固たる結論が導き出される前に、例えば喫煙、肥満、運動不足などの他のリスク因子との相対的なリスクを評価すべきです」と厳しめに指摘。

 一方、ノッティンガム大学の老化と認知症センター所長トム・デニング博士は「深刻な大気汚染の環境に居住することは間違いなくよくないこと」であり、人間は居住環境にもっと注意を払うべきで、研究はそれを示しているといいます。要は「因果関係にかかわらず、人間はもっと都市の空気をきれいにしなければならない」(英国ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンの加齢精神医学教授ロバート・ハワード博士)というわけです。

認知症発症の約21%が、大気汚染の影響という研究も

 実はカナダでの研究が発表されたのと同じ2017年1月、南カリフォルニア大学の「Translational Psychiatry」(ネイチャー・パブリッシング・グループの出版する雑誌)で発表されています。内容は、空気中の微粒子状物質量が米国環境保護庁の基準を超えるエリアに住む高齢の女性は、認知機能低下のリスクが81%高く、アルツハイマー病を含む認知症を発症する可能性が92%高くなるというもの。この傾向は、アルツハイマー病の危険因子とされる遺伝子、APOE4を有する女性においてより高まっているといいます。また一般の人が認知症を発症するうちの約21%が、大気汚染の影響を受けている可能性があると、調査では指摘しています。

 研究はまだまだ過渡期と言えますが、大気汚染がいい影響を与えていないことだけは明らかです。

 特に日本では3~5月にかけて上昇する傾向にあるPM2.5など、健康への影響が懸念される大気汚染物質の濃度の上昇が指摘されています。春先には黄砂も飛来。環境省では大気汚染物質広域監視システム「そらまめ君」でPM2.5をはじめ、二酸化硫黄(SO2)や浮遊粒子状物質(SPM)などの大気汚染物質濃度の速報値を公開するなど、健康への影響が出ないよう注意喚起を行っています。

 子どもや高齢者だけでなく、すべての人に関係する大気汚染。次の新たな研究論文を待ちつつ、できる対策から始めておいて、間違いはないでしょう。

大西睦子(おおにし むつこ)
医学博士
大西睦子(おおにし むつこ) 東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。
日経トレンディネット2017年6月5日付け記事からの転載です。

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