新・遺伝子改変技術でマッチョな豚が誕生
新技術は「自然に起こる遺伝子の変異を加速しただけ」なのか?
大西睦子
遺伝子組み換え動物が承認された国はまだない
ところで、今から約20年前、1994年に遺伝子組み換え食品として初めて市場に「日持ちのよいトマト」が導入されました。その後、大豆、トウモロコシ、菜の花、ジャガイモ、トマト、綿など多くの作物の遺伝子組み換え食品が次々と製品化されていきました。
実は同じころ、動物で初めての遺伝子組み換え食品である「遺伝子組み換え鮭(アトランティックサーモン)」が誕生しています。この遺伝子組み換え鮭は、米国マサチューセッツ州に本社があるバイオテクノロジー企業、アクアバウンティ・テクノロジーズ(AquaBounty Technologies)が開発したもので、市場に出回る従来の鮭のサイズになるまでの時間が、半分で済むというものです。これは別種の大型の鮭(キングサーモン:Chinook salmon)が持つ成長ホルモン遺伝子を組み込んだからで、成長がとにかく早いのです。
アクアバウンティ・テクノロジーズは、1993年からこの鮭の市場解禁をめぐり、米食品医薬品局(FDA)と戦っています。結局2012年にFDAは、遺伝子組み換え鮭について、環境への影響はない、この鮭について「食べても大丈夫」と安全性を発表しました。
Nature「Transgenic salmon nears approval」
ところがこの鮭、人体への安全性については不明な点が多く、たくさんの問題が議論され、米国内では反対運動が活発になっています。
現在、遺伝子組み換え鮭は、野生の鮭との接触を防ぐため、パナマにある地上のタンクの中で育てられています。遺伝子組み換えによって人為的に作り出された鮭が万が一自然界に放されると、従来の鮭への汚染が危惧されるからです。
「Bloomberg Business」によれば、結局現状では遺伝子組み換え鮭は、パナマ共和国にある埋立地に、62トンも投棄されているといいます。
Bloomberg Businessweek「Why Won't the Government Let You Eat Superfish?」
つまりこれまで、遺伝子組み換え動物は、環境や人体の健康に対する悪影響への懸念から、世界中どこでも承認されていません。
