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医学博士 大西睦子 食・医療・健康のナゾ

新・遺伝子改変技術でマッチョな豚が誕生

新技術は「自然に起こる遺伝子の変異を加速しただけ」なのか?

 大西睦子

 食、医療など“健康”にまつわる情報は日々更新され、あふれています。この連載では、現在米国ボストン在住の大西睦子氏が、ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、論文や米国での状況などを交えながら、健康や医療に関するさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説していきます。
 遺伝子組み換え食品に関する議論は絶えませんが、そんな中、韓国と中国の研究者が新しい遺伝子改変技術を使って“マッチョな豚”を作り上げました。

マッチョな豚はなぜ生まれた?

数十年の交配による品種改良により誕生した「ベルジアン・ブルー」。(c)Eric Isselee -123rf

 「ベルジアン・ブルー」と呼ばれるマッチョな牛をご存知ですか? ベルジアン・ブルーは、筋肉細胞の発達を抑えるミオスタチンを作る遺伝子が変異しているため、全身の筋肉が発達していて、軟らかく脂肪が少ない食用肉を多く生産できます。

 このベルジアン・ブルーは、数十年の交配による品種改良の結果、誕生した牛です。

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Mutations in myostatin (GDF8) in double-muscled Belgian Blue and Piedmontese cattle.

 ところが先日、韓国と中国の研究者が、従来の品種改良よりはるかに早い方法でマッチョな豚を作り上げ、2015年6月30日の「ネイチャーニュース」に取り上げられました。このマッチョな豚は近い将来、私たちの食卓にも登場する可能性があります。

 一体、どんな方法でマッチョな豚を生み出したのでしょうか? 記事を見ていきましょう。

遺伝子改変は“自然に起こる遺伝子の変異を加速しただけ”なのか

 研究者らは、新しい遺伝子改変技術を用いて、マッチョな豚を作りました。これは「ゲノム編集」という、最近、非常に注目されている技術です。簡単に言えば、生物をデザインする遺伝子を“編集”する技術で、目的のゲノム部位(塩基)の削除、置換や挿入などを、ゲノムを切断するタンパク質を用いて行うものです。

 従来の遺伝子組み換え技術は、外から目的のゲノムを切り取って、動植物細胞のゲノムDNAに組み込むのですが、ゲノム編集は外からの遺伝子を組み込まず、その生物のゲノム自体を編集するので、変化がはるかに小さくて済みます。

 マッチョな豚研究の主導者である、ソウル大学校(Seoul National University)のジン・ス・キム(Jin-Soo Kim)博士は、この遺伝子改変技術は、原則的に自然に起こる遺伝子の変異を加速しただけと主張しています。

 このため、博士らはマッチョな豚が、遺伝子組み換え食品の規制対象にならず、人間が消費しうる、遺伝子操作された最初の動物になることを期待しています。

 遺伝子はDNAの一部(数パーセント)であり、髪や目の色や背の高さといった、ヒトの設計図となる遺伝情報が書かれた領域です。DNAの遺伝子以外の部分は、以前は無駄なDNA(=ジャンクDNA)だと考えられていましたが、最近、遺伝子を調整するなどの役割があることが分かってきました。

 そこで、遺伝子と遺伝子以外の部分を含めた遺伝情報全体を「ゲノム」と呼ぶようになったのです。

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