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医学博士 大西睦子のそれって本当? 食・医療・健康のナゾ

日焼け止めで欠乏症に!? ビタミンD不足に注意が必要な理由とは

骨粗しょう症、筋力低下、心疾患、免疫低下を招く恐れも

 大西睦子

 食、医療など“健康”にまつわる情報は日々更新され、あふれています。この連載では、現在米国ボストン在住の大西睦子氏が、ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、論文や米国での状況などを交えながら、健康や医療に関するさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説していきます。
 美肌、美白など美容視点からだけでなく、皮膚がんを招くともいわれ、「良くないもの」というイメージの強い紫外線。でも実は、ビタミンDを造るのに必要なものでもあります。そしてビタミンDは、人間の身体に重要な役割を果たしています。そこで今回はビタミンDと健康の関係について解説します。

紫外線は“悪者”?

日焼け止めが欠かせない季節ですが、紫外線にはビタミンDを合成する働きもあります。(©auremar-123RF)

 日差しの強い日が続きますね。1年のうちでも夏は特に紫外線が強くなる季節。紫外線は肌の老化や皮膚がんの原因となりますから、予防や対策をしている人も多いと思いますし、どちらかというと、“悪者”のイメージがあるかもしれません。

 でも実は、紫外線にはメリットもあることを、ご存じでしょうか? 私たちの皮膚は、紫外線を浴びるとビタミンDを合成します。それが、さまざまな病気の予防になったり、治療に効果が出ると、期待されているのです。

 今回はビタミンDの研究が盛んな、ハーバード大学公衆衛生大学院の情報などを参考に、ビタミンDと健康についてご紹介いたします。

■参考文献
Harvard T.H. Chan School of Public Health「Vitamin D and Health

ビタミンD欠乏症はグローバルな問題

 地球上の約71億人の総人口中、約10億人はビタミンD不足とされています。

 米国ではサンフランシスコ(北緯38度)より北に位置する地域では、ビタミンDを合成するための太陽の紫外線が足りないとされています。日本では東北地方や北海道が、北緯38度より北に位置します。また、太陽の下で過ごす時間が1日15分以内の人、高齢者、太り過ぎや肥満の人、有色人種は、白人よりビタミンDのレベルが低い傾向があり、ビタミンD欠乏症を起こしやすくなります。

 また日焼け止めを“正しく”使いすぎたり、日傘などで日差しをよけすぎたりすると、紫外線がブロックされて、皮膚で合成されるはずのビタミンDができません。

 世界保健機関(WHO)は、間違いなく少量の日光が健康にとって大切で、ビタミンDを作るのに必要な日光照射の目安は、肌の色や生活習慣での違いはあるものの、顔と両手両腕に1週間に2、3回、夏季で約5~15分(低緯度はさらに短時間)としています。また、環境省では日本における日光照射時間は、両手の甲に1日1回、ひなたで約15分あるいはひかげで約30分必要としています(ほかに、平均的な食事の摂取も必要)。ただし日本国内でも、紫外線の量は、時刻、緯度や季節によって異なります。国立環境研究所と東京家政大学の研究チームの報告によると、日本の基準における必要量のビタミンDを生成するための日光浴は、紫外線の弱い12月の正午において、那覇7.5分、つくば22.4分、札幌76.4分、紫外線の強い7月の晴天日の正午には、那覇2.9分、つくば3.5分、札幌4.6分の日光浴が必要なことが分かりました。

ビタミンD欠乏症が懸念される理由

 ビタミンDは、カルシウムやリンの代謝に必須の栄養素であり、古い骨を溶かして新しい骨を作る「骨代謝」の維持や活性化に重要な役割を担っています。

 ビタミンDが不足すると、骨の石灰化の障害が起こり、硬い骨が軟らかくなります。このような病態を、乳幼児や小児では「くる病」と呼び、頭がい骨が軟らかくなる、はいはいができるようになるのが遅くなるなど成長に異常が見られたり、足の骨が曲がって歩行困難になることがあります。また成人になって発症する場合は「骨軟化症」と呼ばれ、筋肉や骨が弱くなり、痛みを感じる場合もあります。

 高齢者の場合は、ビタミンDが不足すると、カルシウムの吸収が悪くなり、骨粗しょう症を招き、骨折のリスクが増加します。くる病や骨軟化症は、骨粗しょう症に比べると認知度は低いですが、歴史的には戦後の栄養不足により問題となっていました。ところが最近、女性の美容上の問題による過度な紫外線対策や極端なダイエット、子どもの外遊びの減少や誤った知識によるアレルギー疾患の食事制限、母乳栄養などが原因で、再び問題になってきています。

 ただ、骨折に対するビタミンD不足は、サプリメントで予防できることが示唆されています。

 例えば、2009年にスイスのチューリヒ大学の研究者らが行った、4万人以上の65歳以上の高齢者(ほとんど女性)を対象とした調査では、ビタミンDサプリメントを1日あたり約800IU(International Unit/国際単位)摂取した人は、ビタミンDの摂取が1日あたり400IU以下の人に比べて、股関節と非脊椎骨折が20%減少しました。

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Prevention of nonvertebral fractures with oral vitamin D and dose dependency: a meta-analysis of randomized controlled trials.

骨だけではないビタミンDの効果

 この約10年間に行われた研究で、ビタミンDの役割が、以前に考えられていたより、遥かに広範囲に及ぶことが分かってきました。

 大きな報告としては、ビタミンDが、がん細胞の増殖を低下させ、感染のコントロールにおいても重要な役割を果たすというものでしょう。

 これら以外にも効果があり、体の臓器や組織の多くにはビタミンDの受容体があって、それぞれの臓器や組織におけるビタミンDの役割を、研究者たちが探求しているのですが、研究成果とメディアの報道が溢れすぎていて、情報が混乱しているのが現状です。

 ここではハーバード大学公衆衛生大学院の情報から、有望な研究分野を以下に解説します。

ビタミンDは、骨だけではなく筋力も強化

 まずビタミンDは、筋肉の強度を高め、転倒の防止に役立ちます。転倒は、高齢者の障害や死亡の原因にもなりますから、とても重要です。

 ただし、ビタミンDの量がポイントで、複数の研究を組み合わせた分析によると、1日あたり700~1000IUのビタミンDを摂取すると、19%転倒の危険性が低下すると示されています。一方、1日あたり200~600IUの摂取では、同様の予防効果はありませんでした。

 また、欲張ると逆効果なので注意が必要です。高齢女性がビタミンDを摂取しすぎると、骨折と転倒のリスクがかえって増すことも報告されています。

ビタミンDと心疾患

 心臓を動かす筋肉は心筋細胞でできていますが、心筋細胞にも、四肢の骨格筋のようにビタミンDの受容体が存在します。つまりビタミンD欠乏症が、心臓病に影響を与えて不思議はないわけです。

 ハーバード大学公衆衛生大学院の研究者らは、健常な男性医療従事者約5万人を対象に、ビタミンDの血中濃度と、心疾患の発症の有無を10年間、調査しました。その結果、ビタミンDが欠乏していた男性は、適切なレベルの男性と比べて、心臓発作が起こる可能性が2倍高くなることがわかりました。

 他の研究でも、ビタミンDレベルの低さが、心不全、心臓突然死、心臓発作、心血管疾患の罹患と死亡と関連するとされています。

 そのメカニズムとしては、ビタミンDが血圧コントロールや動脈の損傷を防止する役割があるからだと考えられています。ただ、まだまだ研究が必要な分野ではあります。

ビタミンDとがん

 1980年、ジョンズ・ホプキンス大学の研究者たちは、非常に興味深い論文を提出しました。大腸がんによる死亡率が、地理的な位置と関係があるというのです。報告によると、北米に住む人は、赤道の近く住む人よりも、大腸がんによる死亡率が高いといいます。

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Do sunlight and vitamin D reduce the likelihood of colon cancer?

 この報告は、高緯度に住む人は紫外線が少なく、ビタミンDのレベルが下がり、大腸がんリスクが高まるという仮説につながりました。

 以降、多くの研究者たちが、ビタミンDと大腸がんやその他のがんのリスクの関係を調査してきました。

 その結果、低いビタミンDのレベルは、最も大腸がんのリスクと関連しており、他にも乳がんのリスクとも関連づけられています。

 ビタミンDのサプリメントのがん予防効果は不明ですが、現在、ハーバード大学の研究者らは「VITAL trial」と呼ばれる研究で調査を進めています。また、カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究者らは、北米の住民に、骨粗しょう症や骨折の予防とがん予防の観点から、1日2000IUのビタミンDを摂取するよう推奨しています。

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Vitamin D for cancer prevention: global perspective.

ビタミンDと免疫機能

 ビタミンDは免疫機能での役割も期待されています。それが次の2つです。

[1]多発性硬化症や1型糖尿病などの自己免疫疾患の発症への関与
[2]結核やインフルエンザのような感染症と戦う免疫力の向上

 [2]について、東京慈恵会医科大学の研究者らは、日本の子どもたちが、毎日ビタミンDのサプリメントを摂取することで、季節性のインフルエンザを予防できるかどうかについて、ランダム化比較試験を行いました。対象となる約340人の子供の半分はビタミンD1200IUを含んだ薬、残りの半分はプラセボ薬を受け取りました。

 調査期間は、冬のインフルエンザシーズンの4カ月間です。その結果、ビタミンD服用グループのインフルエンザA型の発症は、プラセボグループに比べて約40%減りました。インフルエンザB型の発症には有意差はありませんでした。

 この研究は対象者が少なくても、非常に有望な結果を示しました。もちろん、さらなる研究が必要です。また、たとえビタミンDに効果があっても、インフルエンザのワクチン予防接種は受けるべきです。

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Randomized trial of vitamin D supplementation to prevent seasonal influenza A in schoolchildren.

 他にも、ビタミンDの摂取によるうつ病、肥満、血糖、認知障害の改善などの効果も報告されており、今後の研究成果が期待されます。

どれだけビタミンDが必要?

 ビタミンDの必要量については、多くの科学者たちにより、激しい議論が交わされています。

 米国医学研究所(Institute of Medicine:IOM)は、1997年から、1日あたり200IUのビタミンD摂取量を推奨してきました。ところがIOMは、2010年11月30日、米国とカナダの子どもと大人に対して、ビタミンDの推奨摂取量を、1日あたり600IU、71歳以上の高齢者は800IU以上に変更しました。さらに、ビタミンD摂取の上限は、それまでの2000IUから、4000IUに変更されました。

 実に3倍の量の変更ですが、ハーバード大学公衆衛生大学院の研究者らは、「この新しいガイドラインの変更は、最新の研究成果によるビタミンDの骨や慢性疾患への効果を考えると保守的すぎる、もっとビタミンDの摂取が必要。また、4000IUが健康の害になるという証拠はない」とコメントしています。この状況を考えますと、将来、さらにビタミンDの推奨摂取量が変更される可能性があります。

■参考文献
The American Journal of Clinical Nutrition「Issues in establishing vitamin D recommendations for infants and children.

 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」(厚生労働省)では、18歳以上男女で、5.5μg(=220IU)、摂取の上限は100μg(=4000IU)とされていて、新しい米国の推奨量より低めに設定されています。日本でも米国同様に、ガイドラインの見直しは必要だと思います。

■参考文献
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015 年版)の概要

 さて、サプリメントでの摂取が簡単そうに思えてしまいますが、もちろんビタミンDは、食べ物からも摂取できます。サーモン、サバ、ニシンなど油が多い魚はビタミンDが豊富です。また米国では、多くの乳製品やシリアルなどにビタミンDが添加されています。

 「平成25年国民健康・栄養調査報告」によると、日本人男性は平均8.1μg(324IU)、女性が平均6.9μg(276IU)であり、厚労省の摂取基準は満たしています。

■参考文献
厚生労働省「平成25年国民健康・栄養調査報告

 ただ日常的にビタミンDを含んだ食品の摂取が少ない人や、日光を浴びることが極端に少ない人は、サプリメントの利用を考えるべきでしょう。

大西睦子(おおにし むつこ)
医学博士
大西睦子(おおにし むつこ) 東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。
日経トレンディネット2015年7月27日付け記事からの転載です。