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医学博士 大西睦子のそれって本当? 食・医療・健康のナゾ

高タンパク質ダイエットって、大丈夫?

年齢により異なる動物性タンパク質の摂取リスク

 大西睦子

 食、医療など“健康”にまつわる情報は日々更新され、あふれています。この連載では、現在米国ボストン在住の大西睦子氏が、ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、論文や米国での状況などを交えながら、健康や医療に関するさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説していきます。
 ジムで体を鍛えながら糖質制限をし、タンパク質をたっぷり摂取して筋肉量を減らさず減量する…という糖質制限・高タンパク質ダイエットを試みる人が日本で増えているようです。さて、高タンパク質ダイエットに、問題はないのでしょうか?

動物性タンパク質が若年死亡率のリスクを高める?

動物性タンパク質は、すべての原因における若年死亡率を高めるという報告も。(©bogumil-123RF)

 カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco)のディーン・ オーニッシュ(Dean Ornish)教授は、2015年3月23日の米ニューヨーク・タイムズ紙の「オピニオンページ」に、「高タンパク質ダイエットの神話」という投稿をしました。


■参考文献
The New York Times「The Myth of High-Protein Diets

 オーニッシュ教授はこの中で次のように述べています。

 「もう何十年も米国では、肉や脂肪は食べる量を減らすように言われているのに、米国人は2000年には1950年に比べて脂肪を67%、砂糖を39%、肉を41%も多く摂取しているのです。また1970年に比べても、24.5%もカロリーの摂取量が増えています。当然のことながら、私たちはより太り、より不健康になりました。

 こうした状態を解決するのに低炭水化物ダイエットと低脂肪ダイエットのどちらが良いのかという単純な図式で議論できるものではありません。動物性タンパク質は、すべての原因における若年死亡率、中でも、心血管疾患、がんおよび2型糖尿病による死亡リスクを高めるいう報告もあります。また、飽和脂肪酸とトランス脂肪酸の摂取量が多いと、アルツハイマー病の発症リスクが倍増するのです」(オーニッシュ教授)

タンパク質の摂取と死亡率との関連

 2014年3月、南カリフォルニア大学(University of Southern California)長寿研究所のバルター・ロンゴ(Valter Longo)教授らが、タンパク質の摂取と死亡率との関連について、科学誌「Cell Metabolism」に報告しました。

 研究者らは国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey:NHANES)を用いて疫学調査を行いました。研究の対象者は50歳以上の米国人男女6381人(50~65歳:3039人、66歳以上:3342人)です。

 対象者の1日の平均摂取カロリーは1823kcal。摂取カロリーのうち炭水化物が51%、脂質が33%、タンパク質は16%を占め、タンパク質のうち3分の2は動物性タンパク質でした。

 そこで研究者らは、タンパク質の摂取によって、以下のように分類しました。

[1]低タンパク質摂取群:タンパク質からのカロリー摂取が10%未満
[1]中タンパク質摂取群:タンパク質からのカロリー摂取が10~19%
[1]高タンパク質摂取群:タンパク質からのカロリー摂取が20%以上

 18年間の追跡期間中、全死亡率は40%、心血管疾患は19%、がんは10%、また約1%が糖尿病にかかっていました。

 細かく見ていきましょう。

タンパク質を多く取るとがんや死亡リスクが高まる

 50~65歳の高タンパク質摂取群の全死因の死亡率は、低タンパク質摂取群より74%も高くなりました。また、がんによる死亡リスクが4倍増加しました。中タンパク質摂取群のがんによる死亡リスクは、低タンパク質摂取群の3倍でした。

 中タンパク質摂取群のタンパク質摂取量を、低タンパク質摂取群の量に変更すると、死亡リスクは21%減少しました。高タンパク質摂取群のタンパク質摂取量を低タンパク質摂取群の量に変更した場合、死亡リスクは28%減りました。

 また肉や乳製品の動物性タンパク質は、がんおよび全死亡率のリスクを高めましたが、植物性タンパク質は、影響がありませんでした

 対象者を45~65歳に広げても、同様の結果が得られました。ところが65歳以上の場合、高タンパク質摂取が、がんおよび全死亡率の減少と関連しました。

 ではなぜ50~65歳では、高タンパク質の摂取が、がんや死亡率を高めるのでしょうか?

がん化につながるインスリン様成長因子1にタンパク質が影響

 研究者らは、タンパク質の摂取と死亡率との関連について「インスリン様成長因子1(insulin-like growth factor 1、IGF-1)」の影響を調べました。IGF-1は以前、牛乳の話題に登場した、細胞の成長や分裂を促進し細胞死を抑制している、私たちの健康維持や成長に非常に重要なホルモンです。一方でIGF-1を過剰に摂取すると、異常な細胞増殖を引き起こし、がん化につながると考えられています。

 タンパク質の摂取量は、このIGF-1のレベル(体内で生産される量)に影響するのです。実際に、ロンゴ教授らの研究では、IGF-1が10ng/ml増えると、対象となる50~65歳の人のがんによる死亡率が9%高くなりました。

 ただしIGF-1のレベルは、特に65歳以降に減っていきます。これは筋肉が緊張を失い、年齢とともに弱くなる理由の1つでもあります。よって65歳以上だと、タンパク質を多く摂取したほうが、死亡リスクが減ったのです。

低タンパク質の食生活が腫瘍の進行を遅らせる?

 次に研究者らはマウス実験により、タンパク質の摂取量とIGF-1のレベル、がんの成長の関係を調査しました。

 18週齢の雄のマウスを2グループ用意し、39日間連続的に同カロリーで、高タンパク質の食餌(タンパク質量は全カロリーの18%)、または低タンパク質の食餌(タンパク質量は全カロリーの4~7%)を与えました。また各グループのマウスには、実験前に悪性黒色腫の腫瘍を移植し、観察しました。

 その結果、どちらのグループのマウスにも腫瘍ができましたが、低タンパク質の食餌グループの腫瘍の大きさは、高タンパク質の食餌グループに比べて平均78%も小さくなりました。高タンパク質の食餌グループは、IGF-1のレベルが増加していました。また低タンパク質の食餌グループは、高タンパク質の食餌グループに比べ、IGF-1のレベルが35%低くなりました。

 この結果は、乳がんの細胞を移植した場合にも同様でした。

タンパク質は減らすべき?

 ではタンパク質は、摂取量を減らすべきなのでしょうか?

 その答えは、簡単ではありません。

 実際、世界を見渡すと低栄養で苦しむ人が数多くいます。健康に生きるために必要な栄養素、特にタンパク質を含むエネルギーが充分に取れていない低栄養状態は、「PEM」(Protein Energy Malnutrition;タンパク質エネルギー栄養障害)と総称され、発展途上国では、小児の死亡原因の50%以上がPEMに関連しているといわれるほどです。

 PEMには極度のタンパク質不足によるクワシオルコル(kwashiorkor)、エネルギー不足によるマラスムス(marasmus)、両方が混合したマラスミック・クワシオルコルがありますが、アフリカや東南アジアの発展途上国の乳幼児に多く見られるのは、このうちクワシオルコルです。ガーナの言葉で「弟や妹が生まれたために母親から離れさせられた子どもに起こる病気」を語源としています。クワシオルコルになると、足のむくみや膨れたお腹が特徴的な体形になり、顔・手腕のむくみ、筋力低下、肝臓の腫れ、細い毛髪、皮膚炎、無気力、低身長などの症状も見られます。ただし体重減少は、マラスムスほど激しくはありません。

 一方、極度の摂取エネルギー不足で起こるマラスムスは、多くは発展途上国において、特に離乳後に十分なエネルギーを摂取できない子どもが発症します。皮下脂肪が失われたり、筋萎縮の症状が出たりします。一般的にクワシオルコルのようなむくみはありませんが、重度になれば高度な発育障害と明らかな体重減少が起き、全身が衰弱します。ただし、状態が改善されればクワシオルコルより予後は良好です。実はマラスムスは近年、途上国だけでなく、先進国でも起きています。拒食症などの若い女性に多くみられる摂食障害などによる栄養障害がその原因です。

植物性タンパク質をベースに動物性タンパク質もバランスよく

 一体、タンパク質はどれくらい摂取すればいいのでしょうか?

 成長期、繁殖期には十分なタンパク質が必要ですし、生活活動強度とライフステージによって望ましいタンパク質と糖質の比は異なるため、個人差があります。

 米国医学研究所(Institute of Medicine)は、1日のタンパク質の摂取量の目安を、体重1kgに対し0.8g(体重が65kgなら52g)、摂取カロリーの10~35%と、広い範囲を推奨しています。

 肉、魚、牛乳や卵などに含まれる動物性タンパク質には、私たちが体内で作ることができない必須アミノ酸が豊富に含まれ、植物性タンパク質に比べて、体が利用しやすいという利点があります。タンパク質を過剰に摂取する必要はありませんし、動物性タンパク質の過剰摂取については前述の通りリスクが示唆されていますが、豆類、ナッツなど、食物繊維、ビタミンやミネラルなどの栄養素が豊富な植物性タンパク質を多く含む食品をベースにして、動物性タンパク質も適量をバランスよく摂取することが重要です。

大西睦子(おおにし むつこ)
医学博士
大西睦子(おおにし むつこ) 東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。
日経トレンディネット2015年6月10日付け記事からの転載です。