“5:2ダイエット=ゆる断食”って効果あるの?
忘れてはならない基本は“バランスの良い食事”
大西睦子
いつかは人間の健康にもメリットをもたらす?
さらに共著者のギル博士は、「今回の研究を人間に当てはめるには、まだハードルがあります。というのも人間は毎日同じ食べ物を食べるわけではありませんし、食事の時間はライフスタイルに左右されるからです」と述べています。
一方でメルカニ博士はこの結果に楽観的な面があり、「いつかこの結果が、肥満や心臓病などの人間の健康の利益につながるでしょう。食事制限の食餌法のために、ライフスタイルを大幅に変更する必要はないのです。ただ、食事の時間だけを変更すればいい。つまり、深夜のスナックを減らせばいいのですから」とも話しています。
8時間ダイエットのマウスたちは太らなかった
パンダ教授らは、今回の研究以前にマウスを用いた実験を行い、糖尿病や高血圧などの代謝性疾患においても、時間制限の食餌法にメリットがあることを報告しています。その1つが、2012年に科学誌「Cell Metabolism」に報告された論文です。
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Time-restricted feeding without reducing caloric intake prevents metabolic diseases in mice fed a high-fat diet.」
教授らはマウスを
■24時間いつでも時間制限なく高脂肪の食事を取れるグループ
■摂取カロリーは同じで食事を取れる時間に制限を設けた「8時間ダイエット」のグループ
に分け、18週間経過を観察し、比較しました。
8時間ダイエットは、冒頭でも触れましたが、1日の最初の食事から最後の食事までを8時間の枠内に収め、その間はいつでも好きなタイミングで食べてよいけれども、その後は翌日最初の食事まで絶食するというものです。
結果、合計摂取カロリーが同じでも、8時間ダイエットのマウスは肥満にならず、運動能力が向上することを発見しました。また、体内時計遺伝子の発現も、食事時間制限なしのマウスでは弱まっていましたが、8時間ダイエットのマウスでは通常食のマウスと同程度でした。以上から、高脂肪食で同じカロリーを摂取する場合、8時間ダイエットでは概日リズムが改善し、肥満やメタボリックシンドロームの予防になることが示唆されました。
8時間ダイエットへの過度な期待と論争
パンダ教授らの研究が発表された同年、米国の人気健康雑誌「メンズヘルス」元編集長のデイビット・ジンチェンコ氏が、単行本『8時間ダイエット』を出版。「1日の食事を8時間の枠内に制限するだけで、好きな食べ物を好きなだけ食べても痩せられる。しかも、糖尿病やがん、心臓病のリスクが減り、脳も活性化される」とうたい、発売後まもなくニューヨークタイムズ紙のベストセラーにランクインし、話題を集めました。
この本がベストセラーになった際の問題は、ジンチェンコ氏の著書を紹介する記事の中で、パンダ教授らの2012年の報告が「エビデンス」として紹介されたことでしょう。確かに実験は時間制限ダイエットへの期待に沿う結果でしたが、ごく限られた条件での検証であり、そのまま人間の8時間ダイエットの根拠とするには不十分でした。それでも8時間ダイエットへの人々の関心は過熱していったのです。
そんな中、『8時間ダイエット』に対する、医師など専門家による反論が始まりました。ニューヨークにあるマウントサイナイ病院(Mount Sinai Hospital)で肥満の研究に取り組むクリストファー・オクナー所長は、ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)紙に対し、以下のように答えています。
The Wall Street Journal「Researchers Say When You Eat Each Day May Be Crucial to Weight Loss」
「マウスの実験結果が人間にも同様に適用できるという解釈はしないでください。“摂取したカロリーと使ったカロリー”という伝統的な考え方は、“何時間かけて食べる、いつ食べる”ということよりよほど大事なのです。もし時間制限ダイエットが有効なら、朝ご飯を食べずに深夜に食事をする人は、痩せているはずですよ」