発がん物質を減らすなら、黒ビールのマリネでBBQ!
肉に火を通す前の下ごしらえでの活用が有効
大西睦子
食、医療など“健康”にまつわる情報は日々更新され、あふれています。この連載では、現在米国ボストン在住の大西睦子氏が、ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、論文や米国での状況などを交えながら、健康や医療に関するさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説していきます。
今回はビールが発がん物質を抑制する可能性について、解説します。
長時間調理した肉で大腸がんなどのリスクが高まる理由
新鮮でも、生肉は食中毒のリスクがあるため、加熱調理が必要ですよね。ところが、高熱で長時間調理した肉をひんぱんに摂取すると、大腸がんなどの発生率が高くなることが懸念されています。
がんのリスクとなる理由の1つに、ヘテロサイクリックアミンや多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons:PAH)という化学物質が挙げられています。これらの化学物質は、特に脂肪の多い肉をあぶり焼きなどで長時間高熱調理したものに、多く含まれています。
というのも牛肉、豚肉、鶏肉などを直火・高温で焼くと、肉からの脂肪滴が火の上に落ちて炎が出ますよね。実はこの炎はPAHを含んでいて、それが肉の表面に付着するのです。PAHはまた、燻製肉などの製造過程で形成されることもあります。
ちなみに、PAHはタバコの煙や車の排気ガスにも認められます。一方、ヘテロサイクリックアミンは、食品中のアミノ酸、糖、および筋肉にあるクレアチンという物質が高温で反応するときに生成されます。
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Dietary benzo[a]pyrene intake and risk of colorectal adenoma.」
the National Cancer Institute「Chemicals in Meat Cooked at High Temperatures and Cancer Risk
ビールを肉の下ごしらえに使うと、発がん物質を減らせる!?

とはいえ肉料理、特に焼き肉やバーベキューを好む方は多いことでしょう。そこで、是非、ご紹介したい研究があります。
それは「ビールを肉の下ごしらえに使うと、調理で発生する発がん物質を減らせるかもしれない」というもの。
この研究はポルトガルのポルト大学のフェレイラ博士らが報告しました。ドイツ料理などでは肉のビール煮込みなどもあり、ビールを肉料理に使うと肉がやわらかくなったりおいしくなったりすることは知られていますが、報告によれば、うれしい健康効果があるようなのです。
American Chemical Society「Effect of Beer Marinades on Formation of Polycyclic Aromatic Hydrocarbons in Charcoal-Grilled Pork」
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