日経グッデイ

医学博士 大西睦子のそれって本当? 食・医療・健康のナゾ

スマホの使いすぎで肩、肘、指、目、睡眠に異変?

近視にも老眼にも悪影響

 大西睦子

 食、医療など健康にまつわる情報は日々更新され、あふれています。この連載では、現在米国ボストン在住の大西睦子氏が、ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、論文や米国での状況などを交え、健康や医療に関するさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説していきます。
 スマートフォンの利用についてはその弊害もたびたび話題に上ることが多いのですが、目や脳に与える影響について、改めて注意を喚起する動きがあるようです。今回はスマホ利用と健康の関係について、最近の研究から解説します。

米国でも成人の約7割がスマホ利用

スマホの普及率が上がる中で、スマホの使いすぎによる弊害も多く指摘されています。(©wang Tom -123rf)

 スマートフォンの普及率は世界的に著しく上がっています。アップルなどテクノロジー関連企業の情報を提供するウェブメディア、Six Colorsによると、2016年4月26日のアップルの報告では、過去3カ月の売り上げはiPadが51億ドル、Macが62億ドルに対し、iPhoneは370億ドルと圧倒的。2007年にiPhoneが登場して以来、ポストPC時代を担っているのはいまだにタブレットではなくスマホです。

 米ピュー研究所の報告では、米国人成人のうちスマホを所有している割合は2011年時点の35%から、2015年には68%にまで伸びています。特に若者の所有率が高く、18~29歳の米国人でみると、2011年は52%だったのが2015年には86%にまで増えました。一方で同時期に、同世代でコンピューターを所有する米国人の割合は、88%から78%にまで下がっています。

■参考文献
Six Colors「Apple Q2 2016 results: Going down!
PewResearch「Technology Device Ownership: 2015

 日本でもスマホは著しく普及しましたよね。総務省の報告によると、スマホの世帯所有率は2010年の9.7%から、2014年には64.2%にまで上昇。20代に絞ってみると94.5%、30代では92.4%という保有率で、米国を超えています。

 スマホが急激に普及したことでのメリットは数多くありますが、同時にデメリットも指摘されています。日本同様に米国でも多くの専門家たちが、使いすぎによる健康への影響に懸念を示しています。どうすれば“健康的に”利用できるのか、米国で指摘される問題と合わせてご紹介します。

症状その1「テキストネック」:肩こり、首が疲れる

 スマホを使うときは、どうしてもうつむきがちです。これは「テキストネック(Text Neck)」とも呼ばれる姿勢で、背骨に過度の負荷をかけるため、首の疲れや痛み、肩こりや頭痛などさまざまな症状を引き起こします

 ニューヨーク脊椎外科&リハビリテーション医学のケニス・ハンスラ医師の報告によると、大人の頭の重さは中立位置で10~12ポンド(4.5~5.4kg)です。ところが、頭が前方に15度傾くと、27ポンド(12kg)、30度で40ポンド(18kg)、45度で49ポンド(22kg)、60度で60ポンド(27kg)も増加。うつむく角度が深くなるにつれて、頭を支える頸椎(首の骨)へのストレスが高まるのです。

 頸椎は、もともと生理的に少し前に湾曲していますが、ストレスによって湾曲を失います。さらに、このような状態が長く続くと、骨と骨の間にある軟骨でクッションの役割を果たす椎間板に、変性が起こる可能性があります。

 平均的な人で、1日2~4時間もうつむきの姿勢でスマホを使っています。となると1年間では700~1400時間も頸椎に過度のストレスをかけていることになるのです。スマホ保有率が高く、使用時間が長いとされる高校生の場合、1年間でプラス約5000時間も悪い姿勢で過ごしている可能性があるといいます。

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Assessment of stresses in the cervical spine caused by posture and position of the head.

 なかなか大変だとは思いますが、スマホを使うときは目の高さに挙げてください。そうすればうつむかないで済むので、頸椎のストレスが減ります。

症状その2「テキストクロー」「携帯肘」:指が痛い、しびれる

 「テキストクロー(Text Claw)」は、正式な診断に使用される医学用語ではありませんが、スマホでテキスト入力をしていたり、ゲームをしているときに「claw=かぎづめ状」に曲がった指が痛んだり、けいれんが起きたりする症状のことです。ときには腱鞘炎や手根管症候群を引き起こしたり、症状が悪化する可能性もあります。手根管症候群は手の正中神経(親指から薬指の親指側半分を支配している神経)が、手首にある手根管というトンネル内で圧迫され、小指以外の指にしびれや痛みが起き、場合によっては握力ががっくり落ちることもあります。

 メールでの連絡は便利なのですが、依存しすぎは手指にも悪影響があるということ。電話や直接会って話す機会も活用したほうが良さそうです。

 また、「携帯肘(Cell Phone Elbow)」は長時間腕を曲げた結果、小指や薬指にしびれ、うずきや痛みを感じることを示します。医学雑誌「クリーブランド・クリニック・ジャーナル・オブ・メディシン(Cleveland Clinic Journal of Medicine)」によると、携帯肘は、肘部管症候群を引き起こす可能性があります。肘部管症候群とは、肘で手の尺骨神経(薬指の小指側半分と小指を支配している神経)に圧迫やけん引などが加わって生じる障害をいいます。頻繁に携帯をもつ手を替えること、ハンズフリーのヘッドセットや、携帯ホルダーの利用が、携帯肘の予防になります。

■参考文献
Cleveland Clinic Journal of Medicine「What is cell phone elbow, and what should we tell our patients?

症状その3「近視」「コンピュータービジョン症候群」:目が疲れる

 スマホの利用時間が長いとどうしても小さな画面を見つめる時間が長くなります。それがあまりに度を過ぎると、目に悪影響を及ぼします

 科学誌「ネイチャー(Nature)」によると、東アジアでは近視の人口が劇的に増加しています。60年前まで中国の近視人口率は全人口のわずか10~20%でしたが、今や10代や若年成人の90%が近視で、韓国・ソウルでは19歳の男性約96.5%が近視だといいます。

 近視になる要因は、遺伝の影響が大きいと考えられてきましたが、遺伝的変化はゆっくり表出することを考えると、この急激な変化を「遺伝のせい」にすることはできません。シンガポール国立大学のシエン・メイ・ソウ博士は、「世代による違いは、環境の影響があるでしょう」といいます。つまり最近の近視の急激な増加は、多くの子どもが長時間を勉強をしたり読書をしたりすること、コンピューターやスマホの画面に釘付けになる時間が長いことを反映しているといえます。

■参考文献
Nature「The myopia boom

 マサチューセッツ眼科耳鼻科病院の医師らはボストングローブ紙に対し、近年、スマホの使い過ぎで目が痛い、視界がかすむ、頭が痛いなどの症状を訴えて受診する患者が、慢性的にあふれていると答えています。これらの症状は「コンピュータービジョン症候群(Computer Vision Syndrome:CVS)」と呼ばれるものですが、スマホの利用でその患者数が急増していると考えられるわけです。

■参考文献
BOSTON GLOBE「Tiny screens can be a big strain on eyes

 米検眼協会(American Optometric Association)は、CVSとは、長期のコンピューターやタブレット、電子書籍や携帯電話の使用により目や視覚に生じる問題だと定義しています。

■参考文献
American Optometric Association「Computer Vision Syndrome

 CVS関連で最も一般的な症状は、以下になります。

  • 眼精疲労
  • 頭痛
  • 視界がぼやける
  • ドライアイ
  • 首と肩の痛み

 CVSの症状は、個人の目や視覚の状況や、デジタルスクリーンの使用量により差がありますが、未矯正の遠視や乱視、老眼のような加齢による変化などは、CVSの症状を悪化させる可能性があるといいます。

 とはいえCVSの症状の多くは遠視や乱視、老眼などと異なり一時的なもので、コンピューターなどの使用をやめると症状は弱まります。ただし使用しているときだけでなく、使用後も遠くがぼやけるなどの症状が続く場合があり、その症状を放置していると、次にデジタルスクリーンを使用するときに、症状の再発や悪化を招く可能性があります。

 CVSを軽減するためには「20-20-20ルール=20分ごとに、20フィート(6メートル)スクリーンから離れて、20秒間休憩することを心がけましょう。

症状その4「睡眠不足から肥満、がん」:眠れない

 紫外線を慢性的に浴びすぎるとシミやシワ、皮膚がんや白内障のリスクが高まることは、よく知られていますよね。紫外線が強い日はサングラスや日焼け止めを利用することが多いでしょう。

 では「ブルーライト(青色光)」はどうでしょうか?

 太陽の光は、人間の目に見える可視光線(波長およそ400~800ナノメートル)と、見えない紫外線(波長およそ400ナノメートルより短い)や赤外線(波長およそ800ナノメートルより長い)があります。ブルーライトは、380~500ナノメートルの波長で、可視光線では紫外線にもっとも近い、強いエネルギーを持つ光の一つです。

 ブルーライトと聞くと人工的な光を思い浮かべがちですが、自然の光の中にも存在します。例えば空の青い色はブルーライトによるものです。このブルーライトが、日中の覚醒、認知力や記憶力の向上、気分の高揚や自然の睡眠リズムに役立っています。

 一方、スマホやコンピューターのデジタルスクリーンなど、人工の光にも含まれており、長時間こうした人工のブルーライトを浴び続けると、目や体に悪影響があると懸念されています。特に夜間に人工のブルーライトを浴びると、メラトニンという睡眠を促すホルモンの分泌に影響し、睡眠障害をきたすことが懸念されています。

 メラトニンは朝日を浴びると分泌が抑えられ、その後約14~16時間後に分泌されるホルモンで、脈拍や体温、血圧などを低下させ、体に睡眠の準備ができたことを認識させて自然な眠りに導きます。朝7時に起きると夜の21~23時ごろに眠くなるのはこのメラトニンの作用によります。

 あらゆる種類の光にメラトニンの分泌を抑える効果がありますが、ブルーライトの威力は特に強力です。ハーバード大学の研究者らは、ブルーライトと同程度の明るさのグリーンライト(緑色光)を、それぞれ6.5時間浴びたときの影響を比較しました。するとブルーライトはグリーンライトの約2倍メラトニンの分泌を抑制。グリーンライトを浴びた場合、概日リズム(いわゆる体内時計)が1.5時間ずれましたが、ブルーライトを浴びた場合はその2倍の3時間、体内時計がずれてしまったのです。

■参考文献
Harvard Health Publications「Blue light has a dark side

 さまざまな研究から睡眠不足が肥満、がん(乳がん、前立腺がん、大腸がん)、糖尿病、心臓病などの病気のリスクになると指摘されています。また睡眠不足は短期記憶、学習能力の低下を招き、ネガティブな感情を増幅させたり、自尊心や幸福感、活力の低下や不安、抑うつを強めるともいわれます。

 厚生労働省によると、日本人成人の約21%、つまり5人に1人が不眠に悩んでいるとの調査結果もあるほど。さらに恐ろしいことに、子どものうち4~5人に1人が睡眠習慣の乱れや睡眠障害など何らかの睡眠問題を抱えているといいます。

■参考文献
厚生労働省「睡眠障害
厚生労働省「子どもの睡眠

 子どもが真似しないようにするためにも、就寝前に、明るいスクリーンを見るのは避けるべきといえるでしょう

 新しいテクノロジーが登場すると、生活の向上に大きな期待を抱く方が多いと思いますが、その恩恵に浸りすぎて過剰に利用し、健康を害しては逆に生活に支障をきたすだけ。息抜きも忘れずに、健康に注意して利用しましょう。

大西睦子(おおにし むつこ)
医学博士
大西睦子(おおにし むつこ) 東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。
日経トレンディネット2016年9月27日付け記事からの転載です。