日経グッデイ

医学博士 大西睦子のそれって本当? 食・医療・健康のナゾ

カフェインは子どものカラダに良い? 悪い?

子どものカフェイン摂取を米国の専門家が懸念

 大西睦子

 食、医療など“健康”にまつわる情報は日々更新され、あふれています。この連載では、現在米国ボストン在住の大西睦子氏が、ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、論文や米国での状況などを交えながら、健康や医療に関するさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説していきます。
 妊娠中の女性、血圧や血糖のコンロトールに悩んでいる人などを除き、成人についてはコーヒーはヘルシーな飲み物だという記事を以前掲載しました。では子どもの場合は、どうなのでしょうか? カフェインの摂取による影響は?

子どもがコーヒーを飲むのはタブーだった

最近は、クリームなどをたっぷり入れたコーヒー飲料が登場し、子どもでも飲める状況になっている。(©Sergejs Rahunoks -123rf)

 世界中で多くの人に愛されるコーヒー。過去の記事ではコーヒーがヘルシーな飲み物であることをご紹介いたしました。

 では、子どもの場合はどうなのでしょう? 大人と同じように、コーヒーを飲むと、健康に良い効果があるのでしょうか?

 米国では少なくとも20年前までは、「子どもがコーヒーを飲むのはタブー」という風潮がありました。ところが最近、シロップやクリームをたっぷり入れたコーヒー飲料が登場し、10代未満の子どもでも、スイーツ替わりにコーヒーが飲める状況になっています。また、10代前半の子どもたちの間では、エナジードリンクの摂取が目立つようになってきました。

米国、高まる子どものコーヒー消費量

 2014年、米疾病予防管理センター(CDC)にある、国立健康統計センター(NCHS)のエイミー・ブラナム博士らは、医学雑誌「Pediatrics(小児科)」に、2~22歳の米国人2万2000人のカフェイン摂取量の推移を報告しました。1999~2010年までに行ったこの調査では、米国の小児から10代の若者の約73%が、何かしらの形で毎日カフェインを摂取していることが分かりました。

 実は調査期間を通じて子どもの平均的なカフェイン摂取量は、あまり変わりませんでした。変わったのは摂取源です。1999~2000年までのカフェイン摂取源のうち、62%をソーダが占めていましたが、2009~2010年になるとソーダは38%に減り、コーヒーによるカフェイン摂取量が10%から24%まで増加していたのです。また、1999~2000年まではエナジードリンクのカテゴリーはありませんでしたが、2009~2010年を見ると、カフェイン摂取の約6%を占めるようになっていました。

■参考文献
American Academy of Pediatrics「Trends in Caffeine Intake Among US Children and Adolescents

 長い間、子どものカフェイン摂取の大部分をソーダが占めていたのですが、この7~8年ほどで、コーヒーとエナジードリンクの割合が増えたのです。

エナジードリンクやコーヒー飲料はカフェインも糖分も増量!?

 ブラナム博士らの報告によると、米国の多くのエナジードリンクは、8オンス(237ml)のサイズで販売されていますが、より大きなサイズの売り上げが伸びています。12オンス(355ml)サイズのエナジードリンクに含まれる砂糖(糖分)は平均36g。これは同量のソーダとほぼ同じ糖分になります。一方、エナジードリンクに含まれるカフェインは、ブランドにより異なるものの、12オンス中130mgになるものもあります。カフェイン入りソーダに換算すると、12オンスサイズの4本分に当たります。

 同様にコーヒー飲料は、サイズやフレーバーの違いはありますが、ソーダのほぼ2倍の糖分やエナジードリンクと同等量のカフェインを含みます。さらにクリームたっぷり…のドリンクも多く出回っています。

 米国ではこれまで、子どもの肥満問題の対策としてソーダやジュースの摂取量を減らすことに重点を置いてきました。ところが今後は、コーヒー飲料やエナジードリンクの摂取もモニタリングする必要がでてきたわけです。

 さらに、ブラナム博士らは最近、カフェインを多く含む食品や飲料の開発と、それらの子どもへのマーケティングを懸念しています。実際、米国では、子どもや10代の若者をターゲットに、カフェインを含むキャンディ、ポテトチップス、ガムなどの食品の販売が、過去10年間に劇的に増加しています。気づかないうちに、子どもがカフェインを過剰に摂取するリスクが高まっているのです。

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Caffeine use in children: what we know, what we have left to learn, and why we should worry.

子どものカフェイン摂取を専門家が懸念

 これまでのカフェインの健康に対する調査は主に成人が対象で、適度な量のカフェイン摂取はエネルギー消費量の増加、身体能力の向上、疲労減少、瞬発性の向上、認知機能の強化、集中力と短期記憶の向上につながることが示されています。半面、過剰に摂取すると心拍数や血圧の上昇、睡眠障害、動悸や胃のむかつきなどを引き起こすことが分かっています。

 しかし成人に現れるカフェインのこうした作用が、子どもにも同等に表れるのかどうかは、明らかにされておらず、現在、子どもや若者を対象にした研究が進められています。以下の7項目から見ていきましょう。

[1]血圧や脈拍への影響

 カフェインが子どもの血圧を上げ、心拍数を減らすことがこれまでの研究で示されています。ただし、思春期以降は男女差があるようです。

 ニューヨーク州立大学バッファロー校の研究者らは、思春期前(8~9歳)の子ども52人と、思春期後(15~17歳)の男子49人と女子47人を対象に、カフェイン摂取が、心拍数と血圧に与える影響を調査しました。

 結果、思春期前はカフェインによる心拍数と血圧の反応に男女差はなく、思春期後は男子は女子よりカフェインによる反応が高まりました。また、思春期後の女子の場合、月経周期の黄体期(排卵から月経まで)中期にカフェインを摂取すると心拍数が減少し、卵胞期(月経が始まってから排卵まで)中期は血圧の上昇率が大きくなりました。

 カフェインに対する反応の性差は、ステロイドホルモンのレベルなどの生理学的な因子によるものか、それとも心理社会的な因子によるものかを確認するために、さらなる研究が必要ではないかと研究者らは論じています。

■参考文献
American Academy of Pediatrics「Cardiovascular Responses to Caffeine by Gender and Pubertal Stage

[2]睡眠障害

 オハイオ州立大学の研究者らは、1日あたり平均53mg(0~800mg)のカフェインを摂取している191人の中学生を対象に、14日間の睡眠パターンとカフェインを含む食品の摂取について調査しました。結果、カフェインの摂取は夜間の睡眠時間が短くなることと関連していました。参考までに、日本で販売されている「ペプシコーラ」は100mlあたり約10mgのカフェインを含んでいると表示されており、500mlのペットボトルの場合、約50mgが含まれていることになります。

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Caffeine consumption and weekly sleep patterns in US seventh-, eighth-, and ninth-graders.

[3]脳内報酬系への影響

 カフェインは、脳内報酬系の発達に作用し、将来の食品や飲料の好みに影響を与える可能性が指摘されています。ただし、この影響にも性差があるようです。12~17歳を対象にしたニューヨーク州立大学バッファロー校の報告によると、男子は女子より、カフェインの影響をより受けやすい可能性があるといいます。

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Sex differences in reinforcing value of caffeinated beverages in adolescents.

[4]カフェインの離脱症状(副作用)

 英国ブリストル大学の研究者らは、9~11歳の26人を、カフェインを習慣的に摂取(平均109mg/日)しているグループ、していないグループ(平均12mg/日)の2つのグループに分けて調査。両グループともに一晩カフェイン断ちをした後、カフェイン50mgを与えました。カフェインを習慣的に摂取しているグループは、頭痛が起き、認知力が鈍くなるといった離脱症状が現れていましたが、カフェインの摂取でこれらが収まりました。一方、カフェインを習慣的に摂取していないグループでは、認知機能、注意力や頭痛などは、摂取前後で顕著な変化はありませんでした。

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Psychostimulant and other effects of caffeine in 9- to 11-year-old children.

[5]他の物質への依存

 ボストン小児病院小児睡眠障害センター所長ジュディス・オーウェンス医師は、ワシントンポストに対し、「子どもたちが早い時期にカフェインを摂取するようになると、喫煙やアルコールを摂取するようになる可能性が高い」と警告します。因果関係は不明ですが、カフェインを摂取する子どもは、精神作用がある物質を試す可能性が高くなるようです。

■参考文献
Washington Post「More kids are drinking coffee. Is caffeine safe for them?

 また、エナジードリンクが他のドラッグへの入り口になると主張する研究者もいます。メリーランド大学の報告によると、エナジードリンクを飲む学生は、アルコールやドラッグなどの利用が高まりました。

[6]うつ病

 ピッツバーグ大学の調査によると、うつ病と診断された30人(7~17歳)の子どもは、1日平均コーヒー5杯分のカフェインを摂取していました。一方、同年齢の精神的な疾患と診断されていない23人は、1日コーヒー1杯分のカフェインを摂取するだけでした。

 この報告の共著者であるジェニファー・シルク博士は、ワシントンポストに対して、「カフェインが子どものうつ病に影響したのか、うつ病のため子どもがカフェインを欲しがったのか、因果関係ははっきりしていません。ただ、子どもはけだるさや落ち込んだ気分のときに、カフェインを摂取すれば気分が良くなり、エネルギーが高まると思い、自己治療法として使っている可能性があります」といいます。

 シルク博士らの研究では、うつ病の子は多めにカフェインを摂取した日は、より不安を報告したことが示されています。シルク博士は、「疲労、気分の悪さや不安に対処するため、カフェインを使用する傾向がありますが、カフェインこそが、それらを引き起こす可能性があるのです。つまり、子どもがカフェインを摂取していいという、十分な理由はないといえます」といいます。

[7]長期的な影響

 子どもがカフェインを摂取することによる長期的な影響は、科学的に不明です。オーウェンス医師は、ワシントンポストに対して、「子どもたちがカフェインを利用する理由はありません」と警告します。

国によって違う、子どものカフェインの摂取量制限

 そんな中、子どものカフェイン摂取量に関するリスク評価が各国で検討されています。

【1】米国

 FDAは健常な成人の最大カフェイン摂取量を1日400mg(コーヒー4、5杯)まで、と設定していますが、子どもの摂取量については設定していません。

 ただし、FDAは子どもや10代の若者の健康にカフェインが影響することを懸念し、「FDAや食品産業は国民の健康を保護し、社会規範を尊重する必要があり、子どもや10代の若者にカフェインなどの刺激物を販売すべきではない」と警告しています。また、米国小児科学会は、子どもや10代の若者のカフェイン摂取に反対の立場を示し、専門家は1日100mgあるいは、2.5mg/体重kg未満にすべきとしています。

■参考文献
American Academy of Pediatrics「Health Effects of Energy Drinks on Children, Adolescents, and Young Adults
U.S. Food and Drug Administration「FDA to Investigate Added Caffeine

【2】カナダ

 カナダ保健省は、子どもの体重や年齢によって、カフェインの摂取量を定めています。

4~6歳:1日45mgまで(コーラ1缶=355ml分)
7~9歳:1日62.5mgまで(コーラ1.5缶分)
10~12歳:1日85mgまで(コーラ2缶分)
13歳以上:2.5mg/体重kgまで

【3】欧州

 欧州食品安全機関(EFSA)は、健康な成人1日当たり400mgの習慣的なカフェイン摂取、1回量3mg/体重kgのカフェイン摂取量なら安全上の懸念はないとし、子どもや10代の若者は情報が不十分なものの、1回量3mg/体重kgを上限としています。

■参考文献
European Food Safety Authority「Scientific Opinion on the safety of caffeine

【4】日本

 日本では、厚生労働省は基準値を設定していませんが、内閣府食品安全委員会は2011年に公開した食品中のカフェインについてのファクトシートで、「カフェインを含む食品については、自ら行う評価の案件としては見送るが、カフェインの子どもへの影響を懸念する意見があることから、情報収集を行い、リスクに関する情報を提供することが重要である」としています。

■参考文献
食品安全委員会「食品中のカフェイン

 米国の子どもの多くが、夜遅くまで勉強をしたり、ゲームをしたり、ソーシャルメディアにハマったりして睡眠不足になり、その眠気を払い、エネルギーを高めるために、コーヒーやエナジードリンクを多く摂取するようになっているといいます。おそらく日本でも同様の現象が起きているのではないでしょうか?

 もちろん摂取の際の注意点を理解していれば、良い影響が得られることは、以前の記事でもお伝えしました(「コーヒーは結局、カラダに良い? 悪い?」「エナジードリンクを飲む前に、知っておくべき7カ条」)。とはいえ子どもがエネルギーを高めるためには、カフェインを利用するより、しっかり眠り、バランスの良い食事をとり、体を動かすことが何より大切だと思います。

大西睦子(おおにし むつこ)
医学博士
大西睦子(おおにし むつこ) 東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。
日経トレンディネット2016年5月16日付け記事からの転載です。