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医学博士 大西睦子のそれって本当? 食・医療・健康のナゾ

成績アップから問題行動抑止まで、「いっしょに夕食を食べること」がもたらすメリット

日本では「父親とほぼ毎日食べる」幼児はわずか34.6%

 大西睦子

 食、医療など“健康”にまつわる情報は日々更新され、あふれています。この連載では、現在米国ボストン在住の大西睦子氏が、ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、論文や米国での状況などを交えながら、健康や医療に関するさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説していきます。
 「家族そろって夕食をとりたい」と思っていても、仕事の関係などでなかなか実現できていないという人は多いでしょう。一方で最近の研究では、薬物やアルコール摂取、いじめなど、子どものさまざまな問題を防ぎ、守るためには、家族がそろって夕食をとることが大切だという報告が出ています。

家族と夕食を共にするということ

「家族そろって夕食をとりたい」と思っていても、あまり実現できていないという人は多いでしょう。しかし、「子どもと一緒に夕食を食べること」はとても大切です。(©PaylessImages -123rf)

 親が子どもと一緒にできる最も大切なことって何でしょう?

 ハーバード大学医学部アン・フィシェル教授は、ワシントンポストに対して、「子どもと一緒に夕食を食べること」だと言います。フィシェル教授は20年間におよぶ北米、ヨーロッパ、オーストラリアでの研究を通じて、家族と夕食を共にすることが、子どもの心と体に重要だという結果を報告しました。

 今回は、フィシェル教授の記事や他の研究報告を参考に、子どもと一緒に夕食を食べることが、なぜ大切なのかを考えてみたいと思います。

【1】家族との食事は、若者の危険な行動リスクを下げる

 定期的に家族そろって食事をすることは、10代の子どもの喫煙、アルコール、薬物使用、暴力、学校での問題、性的行為、うつ症状や自殺願望など高リスクな行動を減らすことが分かっています。

 米国の25州213都市で小学校6年生から高校3年生、9万9462人を対象にしたミネソタ大学の調査によると、家族みんなで夕食を共にする回数が週に0~1回の子ども(2万135人)は、週5回以上(4万4060人)の子どもに比べ、さまざまなリスクが高まりました。以下は、それぞれの子どもが高リスクな行動を起こした率を比較したものです。

家族みんなで夕食を共にする回数が週に0~1回の子どものリスク vs 週5回以上の子どものリスク
[1]アルコールの使用:38.0% vs 20.2%
[2]喫煙:31.4% vs 13.0%
[3]薬物使用:29.1% vs 12.0%
[4]3回以上の性交経験:30.2% vs 11.8%
[5]うつ病/自殺リスク:35.7% vs 17.5 %
[6]反社会的な行動:33.0% vs 17.5%
[7]暴力:41.8% vs 29.7%
[8]学校での問題:30.6% vs 14.6%
[9]過食や嘔吐:16.8% vs 9.8%
[10]極端な体重減少:19.9% vs 10.9%

【2】家族との食事は、子どもをいじめから守る

 マギル大学(McGill University)の研究者らの報告によると、過去1年以内に、若者の5人に1人は、ネットでのいじめを経験しています。ネットでのいじめは、伝統的ないじめと同様に、若者のメンタルヘルスの問題や薬物使用のリスクを高めます。

 研究者らは、12~18歳までの1万8834人の生徒を対象に、5つの内在化問題(不安、うつ病、自傷、自殺念慮や自殺企図)、2つの外在化問題(論争や暴力)、4つの物質使用の問題(頻繁なアルコール使用、頻繁な暴飲暴食、処方薬の不正使用や薬物乱用)という合計11の問題について、調べました。その結果、ネットでのいじめはすべての問題に関与していることが分かりました。

 ただし定期的に、家族と夕食を共にする若者は、ネットいじめからの立ち直りが容易だということが分かったのです。

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Cyberbullying victimization and mental health in adolescents and the moderating role of family dinners.

【3】家族との食事は、子どもの行動や感情をポジティブに

 定期的に家族そろって夕食をとることは、危険な行動を抑えるだけではなく、ポジティブな行動や感情を高めることにもつながるといいます。

 マギル大学の研究者らは別の論文で、家族と一緒に食事をすることで、若者の感情や行動上の問題が減り、他人を信頼し、役に立つ行動をすると報告しました。また家族の経済状況にかかわらず、生活の満足度が高くなりました。

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Family dinners, communication, and mental health in Canadian adolescents.

【4】家族との食事は、成績を向上させる

 コロンビア大学嗜癖物質乱用国立センター(The National Center on Addiction and Substance Abuse at Columbia University:CASA)の研究者らの調査によると、家族との食事の頻度は、10代の若者の学業の成績にも影響するといいます。

 週5回以上、家族と夕食を共にする10代の若者に比べて、0~2回の10代の若者は、学校での成績が2倍以上低くなりました。週5回以上、家族と一緒に食事をした若者の成績のほとんどがA(最も高い評価)かBになる可能性が64%だったのに対し、0~2回の10代の若者は49%でした。一方、週5回以上、家族と一緒に食事をした若者は、C以下の評価になる可能性は9%でしたが、0~2回の10代の若者は20%に上りました。

 また、子どもの語彙は、朗読よりも夕食の会話で向上します。ハーバード大学教育学大学院(Harvard Graduate School of Education)の研究者らは、家族との夕食における会話で使用される、まれな単語(最も一般的な3000の単語のリストに登録されていない)の数を数えました。すると、子どもたちは夕食のときに、まれな1000の単語を学んでいました。一方、両親の朗読では、143の単語を学びました。たくさんの単語を知っている子どもは、より早く、より簡単に読むことができるようになります。

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Mealtime talk that supports literacy development.

【5】家族との食事は、体も健康にする

 ハーバード大学医学部(Harvard Medical School)の研究者らによると、家族と夕食を共にする子どもの食事パターンは健康的で、より多くの果物や野菜を食べて、食物繊維と微量栄養素を摂取し、油で揚げた食品、炭酸飲料、スナックや赤身肉の摂取は少ないことが分かりました。

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Family dinner and diet quality among older children and adolescents.

 また、ミズーリ大学(University of Missouri, Columbia)の報告によると、夕食時にテレビを見る米国の幼稚園児は、小学校3年生になると太る傾向があります。夕食中にテレビを見ている子どもと肥満の関連については、スウェーデン、フィンランド、ポルトガルでも報告されています。

 つまりテレビを見ずに食事をするという点でも、家族と夕食を共にすることは重要です。

 こうして身につけた健康的な食習慣は、子どもが成長した後も維持できます。週に5回以上、家族と共に食事をしてきた若者は、自己誘発性の嘔吐、下剤やダイエット薬の使用、断食や少食、喫煙などの摂食障害に苦しむ可能性がそうでない若者に比べてはるかに低くなります。

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Are family meal patterns associated with disordered eating behaviors among adolescents?

 また、シラキュース大学(Syracuse University)の研究者らによると、家族との食事が、喘息の症状を軽減することを報告しています。原因としては、子どもの不安の軽減と子どもが薬を服薬するかどうかを確認する機会が増えることが考えられます。

日本では「父親とほぼ毎日食べる」5歳児はわずか34.6%

 以上、5つの理由を見てきましたが、コロンビア大学嗜癖物質乱用国立センター(The National Center on Addiction and Substance Abuse at Columbia University:CASA)の研究者らの調査によると、2007年は米国の10代の若者の59%が、少なくとも週に5回、家族と夕食を共にしていました。1996年(初めて、家族との食事が、物質乱用との関係が示された年)の51%から増加傾向にあります。また米国の10代の若者の84%が、家族と共に食事をすることを望んでいます。

 日本ではどうでしょうか?

 実は内閣府の調査によると、20歳以上の日本人で、夕食を家族とほぼ毎日一緒に食べる人は56.5%でした。また、日本栄養士会全国社会福祉栄養士協議会の調査によると、5歳児では、夕食を「母親とほぼ毎日食べる」子どもは89.7%でしたが、「父親とほぼ毎日食べる」子どもは34.6%ととても低い数字が示されました

■参考文献
The National Center on Addiction and Substance Abuse at Columbia University 「The Importance of Family Dinners IV
農林水産省「『孤食』や『個食』が増えている

 たしかに、競争社会に生きる現代人は、仕事、勉強や交遊などに忙しく、「子どもと一緒に夕食を食べること」が難しくなってきています。しかも日本では長時間労働がたびたび問題になっています。ワシントンポストでのフィシェル教授の言葉は、そんな日本人へのメッセージとさえ思えます。

「ほとんどの先進国では、家族が一緒に田畑で作業をしたり、楽器を演奏したりする時間はありません。だからこそ、夕食は家族が顔をそろえ、お互いの身に起きていることを理解し合うための、最も信頼性の高い方法なのです。毎日一緒に食事をすることは、でこぼこ道(=子どもや若者の危険な行動)を走行するためのシートベルトのようなものです。

 ただし、夕食を共にすることが良い効果を発揮するかどうかは、家族の関係性にもよります。ただ黙って座って食事をしたり、両親が大声で怒鳴り合ったり、子どもを叱るだけだったりする夕食には、ポジティブな効果はありません。

 また、子どもと両親が互いの身に起きていることを共有するためには、夕食に1時間はかかると思います。でもそうしたじっくりとる夕食の時間が、食卓から家族が離れたときにも、強い絆を生むのです」

大西睦子(おおにし むつこ)
医学博士
大西睦子(おおにし むつこ) 東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。
日経トレンディネット2016年3月24日付け記事からの転載です。