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スゴイカラダ

においの記憶はなぜ色褪せない?

嗅覚の刺激は大脳に直接届く

 北村 昌陽=科学・医療ジャーナリスト

 さて注目は、電気シグナルが伝わる先。人間が持つ5種類の主な感覚(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)のうち、なぜか嗅覚だけ伝達ルートが違う。

 「ほかの4種類のシグナルは、まず脳の視床という場所に届き、そこで情報をある程度整理・統合したうえで大脳へ送られます。でも嗅覚のシグナルは視床を通らず、ダイレクトに大脳へ流れ込むのです」

図2◎ におい成分の種類によって興奮する細胞が違う
[画像のクリックで拡大表示]

 情報を整理・統合するというのは、価値が低いものを捨てたり、一部をデフォルメしたり、似たようなものをまとめること。そうやって処理すればわかりやすさはアップするけれど、生のインパクトは減る。

 嗅覚という感覚は、人類の祖先が、洗練された情報処理過程を進化させるより前に身につけたものだという。だから太古のやり方そのままに、の刺激を大脳へ放り込む。それで、鮮明な印象が残りやすいと考えられるそうだ。

人格の違いがにおいに表れる?

 ところで、人間にとって嗅覚はどんな意味があるのだろう? 人間は犬のように鼻が利くわけじゃないし、日常的な情報収集のほとんどを、目や耳に頼っている。旧式の感覚システムは退化してしまってもおかしくない気もするけれど…。

 「でもね、生まれて間もない赤ちゃんは嗅覚が命綱なのですよ」

 ほう? どういうことですか?

 「赤ちゃんは生まれた直後、まだ目が見えません。お母さんの乳輪腺が出すにおいを頼りに、おっぱいを見つけるのです」

 なるほど。原始的なしくみだからこそ、生まれた直後からフル稼働できるわけか。

 ちなみに、目と耳が不自由だったヘレン・ケラーは、「においで人格がわかる」と語ったことがあるという。人格の違いがどんなにおい成分を発するのかは謎だが、「もし興奮性の脳内物質がにおうとすれば、人の落ち着き度合いや精神状態が、においとしてある程度表れるのかもしれません」と外崎さんは話す。「視覚や聴覚に隠れて気づきにくいだけで、実は私たちも、嗅覚からそんな情報を受け取っているのかもしれませんよ」。

(出典:『スゴイカラダ』日経BP社 2014年4月発行)


北村 昌陽(きたむら まさひ)
科学・医療ジャーナリスト
北村 昌陽(きたむら まさひ) 1963年北海道生まれ。91年京都大学大学院理学研究科博士課程単位取得退学。専攻は生物物理学。92年日経BP社入社。日経メディカル編集部を経て、2000年より日経ヘルス副編集長に就任。ダイエット、エクササイズ、メンタルヘルスなどの特集や連載を担当。2009年退社。現在、医療・健康ジャーナリストとして活躍している。著書に『カラダの声をきく健康学』(岩波書店)がある。

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