四季折々の食を味わうのは、人生の楽しみの1つ。皆さんはどの季節が好きですか? 食を楽しめるのは、「味覚」のおかげ。でももともとは、楽しむことが目的ではなかったようです。味を感じるしくみの背後には、命を守るための自然の知恵が隠れていました。

よく、面白みのないことを「味気ないね」なんて言うけれど、もし私たちの舌が味を感じなければ、人生は文字通り、味気ないものだったに違いない。味覚は、私たちの暮らしを豊かに彩ってくれる存在だ。
一口に味といってもいろいろな種類がある。「甘味、苦味、酸味、塩味、うま味の5つを“基本味”と呼びます」。農研機構食品総合研究所の食認知領域ユニット長で、味覚の分子生理学が専門の日下部裕子さんは、こう話し始めた。
味を感知する器官=味蕾(みらい)の表面には、この5つに対応する5種類の受容体が顔を出している。例えばショ糖を口に含むと、ショ糖の分子が甘味受容体の表面にぴたりとくっつく。すると受容体は、神経を通じて脳へシグナルを出す。それで私たちは「甘い!」と感じるわけだ。
実際の食べ物には、複数の味成分が含まれている。甘味が強い食べ物でも、隠し味として塩が入っていれば、それを感知した塩味受容体もかすかなシグナルを発する。
さらに、辛味のような基本味以外の“味”もある。「辛味は神経を直接刺激します。味覚というより、“痛み”に近い感覚です」。加えて、食べ物の温度や食感、香りなどの刺激もある。
いろいろな強さのさまざまな刺激が脳の中で統合されたとき、味わいの全体像が出来上がる。私たちはその全体像を味わっているのだ。
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- 味覚の受容体はなぜ種類が少ない?