お腹の周りにくっついた「体脂肪」は、たいてい嫌われものです。でも、ちょっと聞いてください。体脂肪は、決して悪いヤツじゃありません。本当は働きものです。悪役にされてしまったのには、それなりの事情があるのです。

体脂肪は「余計なぜい肉」と見なされることが多い。気分的には同感だけど、体のしくみをひも解いていくと、体脂肪は必ずしも〝余計な存在〟ではないという。むしろ、体がきちんと機能するうえで、非常に重要な働きを担っている。
「そう。近年の研究で体脂肪のイメージは一変しました。ただのぜい肉じゃないですよ」と話すのは、同志社大学スポーツ健康科学部教授の井澤鉄也さんだ。
食欲や脂肪の燃焼を脂肪細胞がコントロール
体脂肪は、「脂肪細胞」という特殊な細胞の集まり。この細胞は、内部に脂肪をストックする袋(脂肪滴)を備えており、ストックが増えるにつれて細胞もぐんぐん膨らむ。一般的な細胞の数百倍まで巨大化することもある。
「でも、脂肪細胞は単なるエネルギー貯蔵庫ではありません」。脂肪細胞にはもう一つ、「ホルモンを分泌する」という重要な仕事がある。例えばレプチンというホルモンは、脳に働きかけて食欲を抑える。アディポネクチンは、糖分や脂肪の代謝を活性化する。
「脂肪細胞のサイズが健全な範囲にあれば、脂肪細胞が大きくなるとホルモン分泌量も増えます」。するとレプチンが食欲を抑え、アディポネクチンの作用で脂肪がよく燃える。その結果、太り気味だった脂肪細胞は小さくなる。
つまり、余った脂肪を蓄える一方で、蓄えが多くなってくれば、食欲や代謝を調節して備蓄を吐き出す。脂肪細胞は全身のエネルギー収支の司令塔役なのだ。やるなぁ!
でも、そんなしくみがちゃんと働いていれば、誰も太り過ぎに悩まないはずでは?
「これは“健全なサイズの範囲内”の話。一度ここを踏み越えてしまうと、まったく様子が変わってしまうのです」
- 次ページ
- 脂肪細胞が目の敵にされるワケ