細胞内で生じる"ゴミ"を分解して再利用
人体は約60兆個の細胞でできている。「細胞」というと多くの人が、学生時代の教科書などで目にした顕微鏡画像を思い浮かべるだろう。その画像ではきっと、中が透けて見えていたはずだ。そして"透明"というイメージから、細胞の中はさらさらの水分で満たされているような印象を持っていると思う。
でも実は、細胞の内部はドロドロ。肉をフードプロセッサーにかけるとドロドロになるが、あんな感じなのだという。
「たんぱく質の分子が高濃度で溶けています。細胞の内部は、どこもかしこもたんぱく質です」
たんぱく質は、20種類のアミノ酸が数十から、ときには数千個もつながってできる分子の総称。つながるアミノ酸の順番によって、たんぱく質の種類が決まる。人間の体内には2万種以上のたんぱく質があり、それぞれが違う働きをしている。
ここで大事なポイント。たんぱく質は劣化しやすい分子で、熱や酸化ストレスの影響で簡単に変性してしまうのだ。だから細胞の中では、時間とともに変性たんぱく質が蓄積していく。「それをきれいにするのがオートファジーです」
オートファジーはこんな感じで起きる。細胞内の空間に隔離膜という膜がおもむろに出現し、周囲を包みこむ。そのあたりにあるたんぱく質ごと、膜の中に封じ込めるのだ。そこにリソソームという別の小胞が合体。リソソームが持ち込んだ分解酵素によって、包みこまれたたんぱく質が分解される。
分解産物(アミノ酸)は、新たなたんぱく質の材料になる。つまりオートファジーは、お掃除と同時に、リサイクルシステムでもある。「体内で分解されるたんぱく質は1日約200g。この半分弱ぐらいは、オートファジーが分解していると思われます」
オートファジーには、ランダムに起きるタイプと、古くなったターゲットを狙って壊すタイプがある。前者は、たまたま膜の中に入ったものを、古いものも新しいものもまとめて壊す。けっこうアバウトなやり方だ。
「細胞内は、変性たんぱく質がそこらじゅうで発生します。大雑把なやり方でも、掃除として十分機能するのでしょう」
なるほど。常にスクラップ&ビルドをしていれば、全体として鮮度が保たれるというわけか。体の営みというと何となく"精密なもの"というイメージがあるけれど、こんなおおらかな方法がしっかり機能するのも、なんだかおもしろい。
一方、後者は最近になって知られてきたタイプで、傷んだミトコンドリアなどを特別に標識し、取り込んで壊す。より洗練されたアプローチといえる。