体のどこかが痛いときは、気分も晴れません。うつうつ、イライラ、痛みなんて、消えてほしい。気持ちはわかります。でも、体に「痛み」が備わっているのにも、理由があるんです。好きになれとはいいませんが、一応、事情だけでも耳を傾けてみてください。ちょっと見直すかもしれません。

体の不調やトラブルを示すサインはいろいろあるが、際立って不快の度合いが高いのが「痛み」だろう。もちろん発熱やだるさもつらいけれど、やっぱり痛みの存在感は際立っている。
「そんなふうに感じるのは、痛みが〝最も原始的な感覚〟だからでしょうね」
熊本保健科学大学大学院で痛みのメカニズムを研究する特任教授の吉村恵さんは、こう話し始めた。
「人類のはるか祖先の生き物が、命を守るために身につけたシステムです。単純ですが、インパクトが強いのです」
へぇ~、そんなふうにいわれると、何だか大切なものにも思える。
太古の祖先から伝わった原始的な警告シグナル
一口に痛みといっても種類はいろいろだ。足をガツンとぶつけたときの痛み。頭痛、歯痛、筋肉痛などはズキズキする。腹痛や月経痛のように体の中から来るのもある。
「原因はさまざまでも、しくみは基本的に同じ。体のどこかで生じた刺激を痛みセンサーが感じ取り、神経を介して脳に伝えます」。ぶつけたときは物理的な衝撃が、筋肉痛では疲労物質が、そして病気やケガでは、患部で起きる炎症反応などの成分が、刺激としてキャッチされる。
でも、そんなにいろいろな刺激を、十把ひとからげに「痛み」とまとめてしまうのも、ずいぶん大雑把ですね?
「いやいや、体に何かあったときに大事なのは、素早く反応することですから。原因の分析は後回しでいいのです」
吉村さんによると、痛みを感じるしくみの原形は、何億年も前、生き物の体に宿った、危険を知らせる警告シグナルだという。熱や毒を浴びたとか、敵が体の一部を食いちぎったようなとき、とっさに「逃げろ!」と警告を発するセンサー。だから、危険の種類よりも「とにかく危険だ」とわかることが何より大事だという。
つまり、痛みはもともと「とにかく危険!」と知らせてくれるシグナルだったのだ。飛び抜けて不快なシグナルだから、逃げ出さずにいられない、そんなやり方で太古の生き物は、自分の身を守っていたようだ。
原始のセンサーの末裔は、私たちの体内にも残っている。「ポリモーダル受容器」といって、ぶつかった刺激も熱刺激も毒物の刺激もすべて「痛み」として伝えるマルチセンサーだ。「もっとあとになって、温度や触覚などに特化したセンサーが進化します。現代の人間の体には、新旧のいろいろなセンサーが共存しているのです」。
実は、足をゴツンとぶつけたとき、私たちは新旧の痛みを感じている。当たった瞬間に
「痛っ!」と感じるのは、新しいセンサーの働き。そのあと少ししてジーンとくるのが、古いセンサーが伝える痛みだ。というのも、新しいセンサーの神経は伝達速度が速いので、こちらが先に伝わってくるという。なるほど~、痛み一つでも、なかなか奥が深いものだ。
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