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スゴイカラダ

遠くを見ると眼の疲れが取れるのはなぜ?

目の疲れはピント調節する筋肉の凝りが原因だった

 北村 昌陽=科学・医療ジャーナリスト

抜けるような青空の果てを眺めていると、ふ~っと体がゆるむ。そんなときってありますよね。あれは、心のリラックス作用だけじゃないようです。実際に眼の中の緊張が、ほぐれるのだとか。そんな気持ちよさには、さらに思わぬうれしい副産物もついてくるらしいですよ。

目の疲れ/イラスト:江田ななえ)
(イラスト:江田ななえ)

 最近、疲れていませんか?こう聞かれて「いいえ全然!」と胸を張って答えられる人は、今どきほとんどいないと思う。お疲れさまです、お互いに。

 では、疲れているのはどこ?と聞かれたとき、真っ先に名前が挙がりそうなのが「眼」。

 眼はものを見る器官だ。外界の光が網膜上に像を結ぶことで、「見る」プロセスが始まる。

 「そのためには、光の通り道が透明な必要があります」と話し始めたのは、福与眼科医院院長の福与貴秀さん。「普通、体の中で栄養を運ぶのは血液ですね。でも眼は透明であるために、血液を入れられないのです」。そこで眼は「房水」という“透明な組織液”を準備したという。

眼球の中にも“心臓”があった?

 房水が巡っているのは、眼球の前部。このあたりには、カメラのレンズにあたる「水晶体」や、絞り装置(光量調整)に相当する「虹彩」といった繊細なパーツが密集している。房水はパーツを作る細胞に栄養を供給し、はき出された老廃物を回収する。この循環が滞ると、水晶体などが濁ってしまうという。

図1◎ 繊細な眼球内のパーツに「房水」が循環して栄養を供給
目の断面図
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 「眼球は独立した循環系。全身の縮図ですよ」

 ほ〜、体の循環のミニチュア版ですか。それなら“心臓”はどれですか?とたずねると、待ってましたとばかりに福与さんは語り始めた。

 「私は、『毛様体』が心臓役だと考えています」毛様体は、水晶体と眼の外枠をつないでいる部位。中に「毛様体筋」という筋肉がある。眼のピントを合わせる筋肉だ。近くを見るときは収縮して水晶体を厚くする。遠くを見るときはゆるんで水晶体が薄くなる。

 「1日に何百回も伸縮する忙しい筋肉です」

 一方で毛様体は、もう一つ大切な仕事をしているという。それが、「房水」を供給すること。眼内の循環液は、毛様体からわき出ていたのだ。

 「よく“ふくらはぎは第2の心臓”などといいますね。血液循環では、ふくらはぎの筋肉が歩きながら伸縮してポンプ機能を果たします。同様に眼の中では、毛様体筋がピントを合わせながら、ポンプ役も担っているのだと思います」

 なるほど。動く筋肉はムダにせず多目的に使う。実に効率がいい。

 「もっとも、“毛様体=ポンプ説”は、今の段階では仮説です。でも間接的な証拠はあります」と福与さん。それが、房水が外に流れ出る「シュレム管」だ。この管は、毛様体筋の伸縮に合わせて太さが変化する。すると房水の流出量が変わり、眼の中の水圧(眼圧)も変動するという。心臓の拍動とよく似た現象が、眼でも起こっているのは確かなようだ。

パソコン疲れは眼の筋肉の“凝り” 焦点距離を動かしてほぐす

 さて、現代人の疲れ目の原因といえば、すぐ思いつくのがパソコンやスマホだろう。

 「見つめる距離がずっと一定なので、毛様体筋が硬直してしまうのです。いわば眼の“凝り”といえるでしょう」

 じゃあ、毛様体筋をゆるめればラクになる?

 「もちろん。遠くと近くを両方見るのが、眼本来の姿。近くばかり見るから凝るのです」。

図2◎ 眼のピントを合わせるたびに眼内の筋肉が伸縮する
網様体の緊張と弛緩
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 福与さんがすすめるのは、眼の前にかざした手と遠方の景色を、1秒間隔ほどで交互に見つめる方法。やってみると確かにスッキリする。眼の中の巡りが良くなった気もしなくもない。

 この方法の真の狙いは「眼の老化予防」だという。「年を取ると水晶体が固くなって毛様体筋が動きにくくなります。これが老眼ですが、その結果、眼内の循環が滞り、白内障などが発症すると考えています」。

 では“近くと遠くを見る”をやっていれば、老眼も防げる?「発生は遅らせると思いますよ。私も毎日やってます」と話す福与さんは、50歳を過ぎても裸眼で新聞をラクに読めるそうだ。

(出典:『スゴイカラダ』日経BP社 2014年4月発行)


北村 昌陽(きたむら まさひ)
科学・医療ジャーナリスト
北村 昌陽(きたむら まさひ) 1963年北海道生まれ。91年京都大学大学院理学研究科博士課程単位取得退学。専攻は生物物理学。92年日経BP社入社。日経メディカル編集部を経て、2000年より日経ヘルス副編集長に就任。ダイエット、エクササイズ、メンタルヘルスなどの特集や連載を担当。2009年退社。現在、医療・健康ジャーナリストとして活躍している。著書に『カラダの声をきく健康学』(岩波書店)がある。

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