体には暑さの中でも体温を一定に保つよう、精巧なしくみが備わっています。汗をかいて、血流のバランスを調節して…。でも、それだけじゃないんです。汗と体温にまつわる繊細で巧妙なメカニズムを紹介します。

体温調節というと、まず思いつくのは「汗」だろうか。汗が体表面から蒸発するときに熱を奪って、強力に温度を下げる。熱い地面に打ち水をすると涼しくなるのと同じ原理だ。
ただ、そんなふうに水分を蒸発させて体温調節をする生き物は、人間ぐらいだという。
「生き物にとって、水は貴重な資源ですからね。なるべくコストをかけないで調節する方法が優先されます」
こう話を切り出したのは、早稲田大学人間科学学術院教授の永島計さん。なるほど。水分を消費する調節法はあとに取っておきたいわけだ。では、コストをかけないというと、どんな方法ですか?
「体表面近くの血流を増やすほうが、手軽です。血管を拡張するだけで、何も失いません」
私たちの体は、全身が皮下脂肪に覆われている。脂肪は熱を通しにくい素材なので、寒い季節にはこれがいわば〝断熱材〟として体温を保つわけだが、夏にはむしろ障害となる。
そこで暑くなったときは、脂肪の外側にある皮膚血管を広げて、血流量を増やす。ここは外気温の影響を受けやすいので、熱を効率よく逃がすことができる。これだけで体温調節できれば、汗を出さずにすむ。
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