ピリピリ、イライラしているとき、体は興奮します。だから心臓がバクバク、息も荒れています。逆に、心が落ち着いているときは、心臓もゆったり。筋肉もふーっとゆるみますね。こんな変化を演出するのが「自律神経」。体の司令塔は、人知れず、奥の深~い働きをしているのです。

こんな経験はないだろうか。大事なプレゼンやスピーチの前、心臓がドキドキして治まらない。あるいは、偉い人やあこがれの人物に会うことになり、緊張のあまり声が震えて止まらない─。こんな状況を作り出しているのは「自律神経」だ。
神経のうち、私たちが自分の意志でコントロールできないものを「自律神経」と呼ぶ。「冷蔵庫や炊飯器を自動制御するマイコンチップのようなものです」と、名古屋市立大学大学院教授の早野順一郎さんは話す。
「“もっと心拍を早めなきゃ”などと考えなくてもそうなるのは自律神経のおかげ。でも、意志でコントロールできないために悩まされることもあります」
呼吸のリズムに合わせて心拍スピードが変化している
悩まされる話はいったん置いて、まず自律神経の賢い働きぶりを体験してみよう。リラックスして、手首の脈を取り、ゆっくり呼吸する。「吸うとき」と「吐くとき」で、心拍のスピードがかすかに変化するのがわかるだろうか?
「安静時の心拍数はだいたい1分間に60~70拍なので、平均すれば1拍=1秒ぐらい。でも厳密に測定すると、0.9秒から1.1秒ぐらいの間で揺らいでいます。息を吸うときに早まり、吐くときは遅くなるのです」
「呼吸性心拍揺らぎ」と呼ばれるこの現象は、自律神経の作用で起こる。自律神経には「交感神経」と「副交感神経」があり、前者は体のいろいろな機能を加速(興奮)、後者は減速(鎮静)させる。いわばアクセルとブレーキだ。
自律神経の働きは、呼吸のリズムに合わせて変化する。吸うときは交感神経が、吐くときは副交感神経が優位になるため、それに合わせて心拍スピードも変化するわけだ。
この揺らぎは、肺呼吸をする生き物全般に見られる現象だという。「犬は揺らぎがとても大きい動物で、息を吐いているときは心臓がほとんど止まってしまうほどです。おもしろいのはカエル。エラ呼吸のオタマジャクシは揺らぎませんが、陸に上がると揺らぎ始めるのです」。
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