前回のこの連載でもお伝えしましたが、私は現役の頃から、トレーニングという概念を幅広く考えていました。今でも駅では階段を使うのが当たり前ですし、急いでいない限り「動く歩道」は使いません。地下鉄の1~2駅分は平気で歩きます(詳しくは「有森裕子 1年ぶりのフルマラソン、好調の秘密は『100回スクワット』」 参照)。
階段を見つけたら、「あ、これはトレーニングになる! ラッキー!」と思って、有効に使える人ほど、日々の積み重ねが大きくなり、「仕事が忙しくてトレーニングができなかった…」というストレスを抱えることもなくなるのではと思います。
さらにその日常トレーニングをパターン化すれば、基礎力が確実にアップし、週末などにしっかり走るときの練習に生きてくるでしょう。同じ階段の上り下りでも、脚が慣れてきたらスピードアップしたり、歩く距離を伸ばすなどして、強度を段階的に上げていくことができます。自分の筋力や体調に合わせて、適宜調整すればいいのです。こうした“日常生活のトレーニング化”は、地味ですが、スランプの壁を乗り越える何よりの原動力になるように思います。
人はつい、最新メソッドが盛り込まれたトレーニングに飛びつきたくなるものですが、人間の体はそれほど進化していません。まずは基礎をしっかり鍛えることが大事です。何よりも、日常生活でこまめに体を鍛えていれば、ランナーであるかないかにかかわらず、健康を維持し、楽しく歳を重ねていくことができるでしょう。
(まとめ:高島三幸=ライター)
元マラソンランナー

1966年岡山県生まれ。バルセロナ五輪(1992年)の女子マラソンで銀メダルを、アトランタ五輪(96年)でも銅メダルを獲得。2大会連続のメダル獲得という重圧や故障に打ち勝ち、レース後に残した「自分で自分をほめたい」という言葉は、その年の流行語大賞となった。市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。2010年6月、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞した。