東京マラソンの人気などを背景に、ランニング人口は2080万人に増加し、各種スポーツの中でも高い関心を集めています。特に20~40代の男性の参加が多い一方で、アスリートのような走りを性急に求めすぎた結果、故障をしてしまう人も少なくありません。そんな状況に危機感を抱くのは、五輪マラソンメダリストの有森裕子さん。トップアスリートならではの深いランニング知識を基に、楽しく長く走り続けるためのコツをお届けします。

明けましておめでとうございます。お正月はニューイヤー駅伝や箱根駅伝をテレビで観戦し、感動して思わず走りに出かけたランナーの皆さんも多いのではないでしょうか。今年はいよいよオリンピックイヤーです。ますます各種スポーツに視線が注がれ、活気づくことでしょう。
新たな年を迎えて、今年のランニングに対する目標や年間スケジュールを考えていらっしゃる方もいると思います。「今年こそサブフォー(*1)を目指すぞ!」などと、目標を高く持って走り始めている方もいるかもしれません。
レースに出場するからには、誰しもタイムを伸ばしたいですよね。記録が出れば成長を感じる。これは人間にとってうれしいことですし、ランニングは数字で成長を感じやすいスポーツです。では、レースでベスト記録を出すには、どのように年間スケジュールを考えればいいでしょうか。
“数打てば当たる”という考えでは、自己ベストは出ない
大会の前日などに開かれるトークショーなどで市民ランナーの方にお話を伺っていて気づくのは、出場する大会すべてにおいてベスト記録を目指している人の多さです。「すべてのレースで全力を尽くしていれば、どこかの大会で自己ベストが出るだろう」という考えで、年間スケジュールを組まれているのです。
でも実は、それはものすごく無駄な考え方で、ベスト記録が出る確率はとても低いと私は思います。中には、エントリーしたレースすべてに出場するために、足に痛みがあっても無理をしてしまう人もいます。本当に自己ベストを狙うのであれば、足が痛いときは出場を取りやめて、ケガを治すという選択が賢明です。
公務員ランナーの川内優輝選手が多くのレースに出場し、記録を出していたので、その姿に触発された市民ランナーは少なくないように思います。しかし、川内選手にとっての“本命レース”は、あくまでも世界レベルの大会。彼にとってそれ以外のレースは練習の一環で、1つひとつ目的を持って挑んでいます。ベスト記録を狙って、闇雲に全力で走っているわけではないのです。