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有森裕子の「Coolランニング」

有森裕子 五輪の切符をつかむ選手に共通する「強み」とは

東京五輪マラソン女子代表2選手の強さの秘密

 有森裕子=元マラソンランナー

 そんな難しいレースで、見事2時間25分15秒で優勝して代表の座をつかみ取ったのは、前田穂南選手(天満屋)でした。彼女の勝因は、ずばり「自分のペースを守り抜いたこと」でしょう。周りに誰がいようが何人いようが、彼女には関係ないように思えました。

 レース前の記者会見で、前田選手は「周りに惑わされないで自分(の判断)で行きたいと思います」と発言し、天満屋の武冨豊監督も「自分が行けると思ったら行けばいい」という指示をしていたようです。実際にレースを見ていても、集団のペースに翻弄されず、集団から少し横に離れて走っているように感じました。レースの入りは一山麻緒選手(ワコール)に引っ張ってもらっていたものの、8.3km過ぎで冷静に判断して自然と前に出て首位に立ち、20kmからは独走状態になりましたが、走りのリズムをさほど落とさずに淡々と歩を進めているように見えました。

 東京五輪の切符がかかったあの舞台で、自分のペースを崩さず、冷静に判断できたことは評価すべき点です。自分のペースを守り、判断に迷いがないというのは、「人は人、自分は自分」と考えられる性格面も大きいのでしょうが、「これまでの練習やレースでの経験を信じ切ることができている」からではないかと私は思います。こういう選手は、周りの選手にとっては脅威でしかありません。東京よりは涼しいとされる札幌で開催される東京五輪の戦いは、従来の想定よりもハイペースになることが予想されます。そんな中でも彼女のブレのなさは強みになるはずです。

 開催地が突然の決定で札幌に変わったことも、前田選手にとっては何の影響もないでしょう。前田選手は2017年8月に札幌で開催された北海道マラソンで、冷静な判断で逆転優勝(2時間28分48秒)した成功体験があります。彼女にとっては、開催地変更はむしろ有利に働くかもしれません。

紙一重の運命を分けるのは「自分の力を信じ切る強さ」

 2位の鈴木亜由子選手(日本郵政グループ)は、スタート前は非常に緊張していたものの、しっかり実力を発揮して2時間29分02秒というタイムで結果を残しました。さまざまな彼女のインタビューを聞いていても、自分をしっかり分析し、説明できる頭の良さを感じます。その判断力で五輪本番も、大きく崩れる可能性は少ないのではないかと思います。

 2016年のリオデジャネイロ五輪では5000mの代表だった鈴木選手ですが、2018年の北海道マラソンで初マラソンに挑戦し、見事に優勝(2時間28分32秒)した経験があります。今回の開催地変更は、前田選手と同じく、彼女にとっても問題はないと思います。

 一方、2位とわずか4秒差の2時間29分06秒で五輪の切符を逃した3位の小原怜選手(天満屋)は、最後の2.195kmを8分26秒でカバーする走りを見せてくれました。最後にこれだけの力が残っているのなら、もっと前の段階で思い切って勝負を仕掛けていれば…と悔やまれます。彼女は2016年リオ五輪の選考会を兼ねた名古屋ウィメンズマラソンでも、たった1秒差で代表の座を逃しています。身体能力はすごいものを持っていて、代表まであと一歩なのに切符をつかめない。その原因として、彼女は何かに迷いがあり、自分の力を信じ切れていないところがあるように感じます。自分や周りをもっと信じられるようになれば、もっと早い段階で勝負を仕掛けるなど、さらに力を発揮して良い結果につなげることができるのではないでしょうか。

 8位の安藤友香選手(ワコール)は、2時間21分36秒という誰よりも速い自己ベストタイムを持っていて、MGCでも調子が良いと聞いていたにもかかわらず、いざ蓋を開けると何かの歯車が狂ったかのように、タイムをがくんと落としてしまいました。

 実力はあっても、当日のコンディションやメンタル次第で可能性は100にも0にもなる。それが、五輪を目指す戦いの厳しさです。今後、五輪代表の残り1枠は、12月から3月にかけて開催されるMGCファイナルチャレンジの対象レースで決まります。この短期間で、メンタルをどう強化し、動じずブレない気持ちを作れるかが、代表の切符をつかむ鍵になるでしょう。

 7位の福士加代子選手(ワコール)は、今の自分ができることを全力で出した走りでした。可能性があれば全力で立ち向かっていく姿は、他の選手たちにとっても大いに刺激になっていることでしょう。MGCファイナルチャレンジでも気負わず、彼女らしく全力で立ち向かう姿を見守りたいと思います。

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