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有森裕子の「Coolランニング」

有森裕子 女子駅伝「四つんばい」は美談ではない

選手を守るルールの見直しを

 有森裕子=元マラソンランナー

 1つは、今回のアクシデントを「美談」として扱ってはいけないということです。

 この選手がとった行動は、選手の立場から見れば、何も特別なことではありません。もし私が現役時代に同じような状況になれば、同じ行動をとっていたでしょう。私だけでなく、駅伝に出場するランナーなら、おそらく大多数の選手が同じ行動をとると思います。マラソンであれば自分の脚を守るために棄権するかもしれませんが、駅伝はチーム戦ですから、メンバーの一員としての責任感から、無理をしてでも次の走者にタスキをつなごうというのは当然の気持ちです。その行為の良し悪しは、第3者が判断すべきものではありません。

 ただし、それをメディアが美談のように取り上げれば、実業団や大学生の駅伝だけでなく、子どもたちや、彼ら彼女らを教える指導者にも、「ケガをしようが何があろうが、タスキをつなぐことが一番大事である」という誤った価値観を植え付けることになりかねません。今回のテレビ中継では、四つんばいになって進む選手の姿を映しながら、興奮気味に選手を励ます実況があったと聞きます。

 とかく日本人は駅伝好きが多く、走者がタスキをつなぐ姿に感動し、「チームの絆」を感じさせるドラマチックなエピソードを好みます。それ自体は何ら問題ないのですが、今回のようなケースをメディアが美談に仕立てて大きく報道してしまうと、「その行動が正しい」「そう考えるのが常識だ」という風潮を世の中に広めてしまいます。選手だけでなく、指導者がそうした風潮に流されれば、今後、別の選手が同じようなアクシデントに見舞われたとき、選手生命が奪われるようなことにつながりかねません。

 本来、国内外で活躍するような選手を育てるのであれば、痛みが発生したり、ケガをした瞬間に、その場で競技から離脱させなければいけません。もちろん、健康や運動能力向上のために走るような子どもたちでも同じです。子どもであればなおさら、本人に任せず、指導者が即座に判断して止める責任があります。今回の話を美談にすれば、「はってでもタスキを渡す」という行為をまねする子どもたちや指導者が現れるかもしれない、という影響の重大さを、情報を流す側はしっかり認識してほしいと思います。

 テレビ中継の画面で飯田選手の異変に気づいた所属チームの広瀬永和監督は、早い段階で大会運営側に「棄権」を申し出たそうです。その広瀬監督が大会後に「これは美談ではない」と公の場でしっかりおっしゃっていたことは救いでした。

「なるほど」と思った宗茂さんの提案

 2つ目のポイントは、一番の問題である「チーム責任者からの意思伝達のありかたの問題」です。広瀬監督の「棄権」の要請が現場に届いたのは、飯田選手が第2中継所まであと20mほどに迫った地点だったと聞きます。そのタイムラグが生じた原因は分かりませんが、先ほども申し上げた通り、このような状況に陥った時、選手には冷静な判断ができません。沿道からの大声援が、「棄権する」という選択肢を選手から奪ってしまうこともあります。だからこそ、指導者や大会側の迅速で冷静なジャッジが重要になるのです。しかし、現場の審判員は、競技を続行したいという選手の意思を尊重し、タスキをつなぐまで見守るという選択をしました。

 これだけデジタル技術が発展しているのに、チームの責任者である監督の要請が即座に現場に伝達されない状況や、要請が届いたにもかかわらず、運営側が選手を止めなかったことの是非は、大いに議論すべき点だと思います。これから本格的な駅伝シーズンに突入していく今の時点で、もう一度、危機管理に対するルールを徹底して見直す必要があるように思います。

 大会後、かつて男子マラソン日本代表として活躍した宗茂さんが、自身のTwitterでこんなことを発言されていました。「九州一周駅伝」(*1)という駅伝大会で採用されていた、選手が棄権した場合のルールです。

*1 九州・山口各県のチームが10日間で72区間1056.6kmを競う駅伝大会。

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