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有森裕子の「Coolランニング」

有森裕子 五輪マラソン札幌移転、「問題先送り」の大きな代償

そもそもマラソンは夏の競技ではない

 有森裕子=元マラソンランナー

MGCは無駄になってしまったのか?

 こうした運営面の問題とは切り離して、オリンピアンの立場から言わせていただくと、猛暑を避け、命に危険が及ばない環境下で走れるようになったのは、選手にとってはありがたいことでしょう。東京で走る準備をしてきた選手の中には、「華やかな東京で走りたい」という思い入れもあり、落胆や怒りを感じている人もいるかもしれません。でも、札幌は、ロンドン五輪(2012年)のマラソンのような足場が悪い石畳のコースを走るわけでもなく、東京に比べてコース条件が悪くなったわけではありません。過剰な危険がない環境で、きちんと走れるというメリットを最大限に生かし、前を向いて準備を進めてほしいと思います。

 また、監督やコーチ陣など、選手を取り巻くスタッフの皆さんは、決まったことに対して不平・不満を言い続け、選手の集中力を妨げることは控えていただきたいです。それは日本だけでなく、どの国の選手にも言えることでしょう。

 「東京五輪の予行練習のはずだったMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)が無駄になった」という声もあるようです。もちろん、スタッフの配置や警備といった運営面では、MGCが絶好の検証の場だったと思いますし、札幌開催で新たに一から組み直していく労力は、われわれには想像できないほど大変なものだろうだと察します。選手側から見ても、MGCは本番さながらのコースを走って策を練ることができ、五輪本番よりは涼しいものの、ある程度の暑さも体感できるという、自国開催の地の利を生かしたアドバンテージが得られる大会でした。

 でもそれは、他国の選手には関係がないことです。今回の変更は、MGCを走った日本選手から若干のアドバンテージが失われただけで、他の選手と平等な条件になったにすぎないのです。当然ながら、IOCは日本の選手のことだけを考えているわけではありません。であれば、MGCが無駄になったと考えるより、大変でしょうが、選手は少しでも早く気持ちを切り替えて、MGCの走りが無駄にならないように準備すればいいのです。毎年札幌で行われる北海道マラソンを走ったことのある選手であれば、その経験が新たなアドバンテージになる、と前向きにとらえることもできるでしょう。

 前回(MGCは「一発勝負」? 初の選考レースで見えてきたもの)もお伝えしたように、MGC開催の目的は、事前に設定したいくつものハードルを乗り越え、きちんと本番で結果を出せる選手を選出することでした。そうした観点から選ばれた代表選手は、札幌開催に向けてきちんと準備できるポテンシャルを兼ね備えていると信じています。

 一方、暑さが苦手なゆえに札幌への変更をチャンスと感じ、男女ともあと1枠を虎視眈々と狙っている選手もいるでしょう。切り替えが早く、目の前のやるべきことに集中できるメンタルのタフさも、五輪で戦うためには必要な能力です。今後、最終の1枠を巡る戦いに注目したいと思います。

(まとめ:高島三幸=ライター)

有森裕子(ありもり ゆうこ)さん
元マラソンランナー
有森裕子(ありもり ゆうこ)さん

1966年岡山県生まれ。バルセロナ五輪(1992年)の女子マラソンで銀メダルを、アトランタ五輪(96年)でも銅メダルを獲得。2大会連続のメダル獲得という重圧や故障に打ち勝ち、レース後に残した「自分で自分をほめたい」という言葉は、その年の流行語大賞となった。市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。2010年6月、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞した。

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