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有森裕子の「Coolランニング」

有森裕子 五輪マラソン札幌移転、「問題先送り」の大きな代償

そもそもマラソンは夏の競技ではない

 有森裕子=元マラソンランナー

IOCに指摘される前に本気で議論すべきだった

 五輪開催が約9カ月後に迫ったこの段階でのIOCの突然の決定は、開催地である東京都にしてみれば、暴挙とも言えるものです。しかし、IOCに指摘されるまでもなく、東京の酷暑は初めから分かっていたことで、選手や関係者からはずっと前から暑さに対する懸念の声が上がっていました。

 私も含め、いろいろな関係者が「朝はどんなに早くスタートしてもすぐに気温が上がる恐れがあるので、夜にスタートした方がいいのではないか」など、代替案を発信していました。皇居前の日陰のないコースが設定されていた競歩についても、日陰のあるコースへの変更の要望は、既に出ていたはずです。にもかかわらず、こうした状況に陥って初めて、あたふたと修正案を打ち出すことが信じられず、なぜ東京開催が決まった後の初動で、こうしたことが本気で議論されなかったのかと、非常に残念に思いました。

世界陸上ドーハ大会では、酷暑の中のレースで途中棄権が続出しました(写真は2019年10月5日、男子20km競歩でゴールした選手たち。写真:ロイター/アフロ)

 そもそも東京都は、さらなる早朝スタートなどの修正案を出す前に、日本陸上競技連盟サイドときちんと話し合ったのかということも気になりました。あまりに突然のことで時間がなかったのかもしれませんが、今回の騒動の原因は、開催国である日本、開催地である東京都、大会組織委員会、そして日本陸連がそれぞれの立場で考えつつ、最終的な1つのゴールを目指して物事を進める体制になっていなかったこともあると思います。そのため、IOCの鶴の一声でその脆さが一気に露呈してしまったのではないでしょうか。

そもそもマラソンは夏の競技ではない

 IOCの対応も、非常にお粗末だと思いました。まず、五輪をなぜ夏に開催しなければいけないのかという問題を、いつまで見て見ぬふりしながら、アスリートが直面させられる暑さの問題を解決しなければいけないのだろうということです。

 今回の世界陸上の結果を見るまでもなく、地球温暖化が進むこの時代に、真夏にマラソンや競歩といった競技を開催すれば、選手の命に危険が及ぶということは誰もが分かっていたことです。早朝や深夜にスタート時間をずらすことが、放映国の事情が絡んで難しいのであれば、一都市での開催にこだわらず、今回のように、より涼しい開催地へ変更することが当たり前にできるようなルール改正を、もっと前から本気で考えるべきでした。「都市開催」という歴史にこだわらず、サッカーやラグビーのワールドカップのように、いろいろな都市で開催する「国開催」に変えてもいいのではないかと思うのです。

 そもそも、マラソンは夏の競技ではありません。そうした競技の特性に、なぜ五輪関係者はきちんと目を向けてこなかったのでしょうか。夏季五輪の時期を移せないなら、マラソンは冬季五輪で開催するなど、過去の通例にとらわれないルールを検討することが、IOCの役割ではないのでしょうか。

 このタイミングでの開催地変更は、東京五輪のために長い時間をかけて一生懸命準備してきた選手やスタッフ、運営関係者もたまったものではありません。道路に遮熱性の高い舗装を導入するなど、東京都は約300億円をかけて暑さ対策を進めてきたと聞きます。突然白羽の矢が立った札幌市も、一から準備に奔走しなければなりません。開催地変更に伴う費用は、東京都は負担しなくていいことになったそうですが、こんなお粗末なことをやっていては、今後、五輪の開催地に立候補する都市はなくなってしまうでしょう。

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