五輪マラソンメダリストの有森裕子さんが、トップアスリートならではの深いランニング知識を基に、楽しく長く走り続けるためのコツをお届けする本連載。今回は、リオデジャネイロ五輪の女子マラソンの戦いを振り返ります。
日暮れが少しずつ早くなり、すっかり秋めいてきましたね。気温の変動が激しい季節ですので、体調管理には気を付けたいところです。
さて先月は、リオデジャネイロ・オリンピックに続き、パラリンピックが閉幕しました。個人的に注目していた、視覚障害者女子マラソンの道下美里選手が、3時間6分52秒で見事銀メダルを獲得! もともと笑顔が印象的な道下選手ですが、メダルを獲得してますます輝きのある笑顔を見ることができ、本当にうれしく思いました。
実力があるのに大舞台で勝てない…その理由は?
4年に一度の世界のトップアスリートたちの戦いが終わり、いよいよ東京五輪に向けて時間の針が進み始めました。アスリートたちの戦いは既に始まっています。今回のリオ五輪は、史上最多となる41個(金12、銀8、銅21)のメダル、パラリンピックでは前回のロンドン大会を上回る24個(銀10、銅14)のメダルを獲得しました。東京五輪への通過点として、柔道やシンクロナイズドスイミング、卓球、バドミントン、競泳などの競技は、全体的なレベルの底上げがしっかりできている印象を受けました。
一方で、陸上競技、特に女子マラソンの惨敗には、正直なところがっかりしました。「日本勢は5位以内には入るだろう」と期待していたので、本当に残念としか言いようがありません。
女子マラソンは、かつて日本のお家芸と言われていた種目です。でも今回は、福士加代子選手の14位が最高。2時間29分53秒という記録は、金メダリストから5分以上も離れています。田中智美選手は19位、伊藤舞選手は46位とメダルどころではなく、3大会連続で日本選手が入賞できない結果となりました。福士選手などは、現役時代の私よりも自己ベスト(2時間22分17秒)や身体能力も上です。なのにどうして、生涯で一番大事な大舞台で勝てないのか…。
「アフリカ勢が強すぎる!」と言う人がいるかもしれません。確かに彼女たちは実力もメンタルの強さも飛び抜けています。でも、日本が負けたのはアフリカ勢にだけではありません。ベラルーシや米国、北朝鮮、ラトビア、イタリアの選手にも勝てませんでした。アフリカ勢をライバル視する前に、全体的なレベルの底上げを考えることが大事で、選考方法を含めた抜本的な改革が必要だと考えます。
そこまで思ったのも、レースの結果以上に日本勢の負け方にがっかりしたからです。当日のレースを見ていて非常に気になったのは、どういうレース展開をすれば勝てるか、という戦略が十分に練られていないように見えたことです。その最たるものが、「コース取り」でしょう。
