MGCは決して「一発勝負」ではない
今回のマラソン五輪代表選考は、今までのように、決められた複数の大会の結果を踏まえて五輪の強化委員の方々が話し合いで決める方式ではなく、「MGCの上位2人に代表権を与える」という分かりやすい選考方法が採用されました。「このレースで2位以内に入れば五輪出場が確定する」という分かりやすさは、レースを見守る観客や視聴者にも好評だったようです。
ただ気になったのが、レース後、「一発勝負で代表選手を決めた」と表現するメディアが目立ったことでした。厳密に言えば、MGCは一発勝負ではありません。代表切符を手にするのは上位2人のみで、あと1枠はまだ決まっていませんし、何より重要なのは、MGCの出場までにいくつもの関門を設けていることです。
選手たちは、MGCまでの2年間に開催される主な大会で、日本陸上競技連盟が決めた設定タイムを突破しなければ、MGCには出場できません。そしてMGCで2位までに入らなければ五輪には出場できない。この「定められたタイムをクリアする」「決められた大会で2位以内に入る」という二段階の選考基準を設けたことで、高い安定性や、本番にピークを合わせられる調整力、冷静に臨機応変に対応できる力、そして勝負強さを判断することができ、より五輪の舞台にふさわしい選手を選ぶことができたのだと思います。
そういう意味で、MGCは決して一発勝負ではありません。選ばれた選手は、実績もメンタルも高い水準にある優秀な選手なのです。
今回のMGCをきっかけに、一般の方のマラソンへの関心がより高まり、マラソン界が盛り上がればいいなと思います。MGCという、多くの人が注目する選考形式が生まれたことで、「MGC出場」が選手たちの新たな目標となって、モチベーションの向上や実力の底上げにつながればうれしいですし、実業団を持つ企業が駅伝だけではなく、マラソン専門のランナーを育てることに理解を示してくださるようになれば、長距離界はもっと面白くなるとも思います。
次回は、MGCでの女子の戦いを振り返りたいと思います。
(まとめ:高島三幸=ライター)
元マラソンランナー(五輪メダリスト)

1966年岡山県生まれ。バルセロナ五輪(1992年)の女子マラソンで銀メダルを、アトランタ五輪(96年)でも銅メダルを獲得。2大会連続のメダル獲得という重圧や故障に打ち勝ち、レース後に残した「自分で自分をほめたい」という言葉は、その年の流行語大賞となった。市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。2010年6月、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞した。公式Instagramアカウントはこちら。
