設楽選手の失速は、猛暑(*1)でのマラソン経験がない中での読みの甘さが敗因のように思いますが、気温によってマラソンに挑む人間の体力がどれだけ消耗するのかを熟知し、そのためには食事を含めた体づくりをどうすればいいかといった、細部にこだわった戦略を立てる必要性も感じました。もちろん実力はあるので、今冬から来春にかけて行われるMGCファイナルチャレンジでは、大迫選手の持つ日本記録を破って代表の座をつかむチャンスは大いにあると思います。
ここで、東京五輪マラソン日本代表の選考方法をおさらいしましょう。
2020年東京五輪 マラソン日本代表の選考方法(男女共通)
1.
MGCの上位2人を選出(*2)
2.
MGC終了後に行われるMGCファイナルチャレンジ(男子は福岡国際マラソン、東京マラソン、びわ湖毎日マラソンの3レース、女子はさいたま国際マラソン、大阪国際女子マラソン、名古屋ウィメンズマラソンの3レース)で設定記録(男子:2時間05分49秒、女子:2時間22分22秒)を上回った選手のうち最速の1人を選出
3.
2の該当者がいない場合は、MGCで3位となった選手を選出
男子の場合、日本記録よりも1秒早い設定タイムを突破しなければ、3枠目の代表の座はつかめません。MGCファイナルチャレンジの対象レースは12月から3月にかけて開催されます。MGCとは違って暑さの心配はなく、ペースメーカー(*3)もつくため、高速レースになることが予想されます。
MGCの3位入賞者で日本記録保持者でもある大迫選手は、3枠目の有力選手ですが、ファイナルチャレンジで彼の持つ日本記録を突破する選手が登場すれば、五輪代表にはなれません。したがって、大迫選手もMGCファイナルチャレンジに出場して自己ベスト更新を狙うのか、あるいは出場せずに吉報を待ち、東京五輪に向けたトレーニングに集中するのか、その選択は難しいところでしょう。
今回のコースの後半には急な坂道がありましたが、ここでの大迫選手のレース展開は、やや冷静さに欠けた印象を受けました。設楽選手のハイペースや、想定以上の気温の上昇も冷静さを失わせる一因だったかもしれません。もし五輪代表になれば、今回のMGCの体験は、成功も失敗も含めて大きな収穫になるはずです。
*2:厳密には、「MGCの優勝選手」と「MGCの2位、3位の選手のうち、2017年8月1日から2019年4月30日までに国際陸上競技連盟が世界記録を公認する競技会でMGC派遣設定記録(男子2時間05分30秒、女子2時間21分00秒)を突破した最上位者」だが、男女ともに記録突破者はいなかったため、MGCの上位2人が自動的に選出されることになった。
*3 ペースメーカー:あらかじめ設定されたペースで指定された距離まで走り、先頭集団を引っ張る役目を果たすランナーのこと。
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