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有森裕子の「Coolランニング」

有森裕子 パワハラ問題に思う、「アスリートファースト」より大切なこと

スポーツは社会で生きていくための1つの手段にすぎない

 有森裕子=元マラソンランナー

失われていく「正しいスポーツのあり方」

 一連の報道を見ていると、競技団体の幹部やチームの指導者が権力を持ちすぎて独裁的になったときほど、本来の「正しいスポーツのあり方」が忘れられ、「間違ったスポーツに対する考え方」が蔓延していくように感じます。

 では、「正しいスポーツのあり方」とはどんなことなのでしょうか?

 私が考える正しいあり方とは、「スポーツは、社会で生きていくための1つの手段にすぎない」ということです。

 競技を引退しても社会人としてきちんと生きていくための1つの手段がスポーツであり、選手がその競技を通じて社会で生きていくための人間性を育てたり、サポートしたりすることが、指導者や幹部の本来の役割であるはずです。それは、学校のクラブ活動のレベルはもちろんのこと、オリンピックのメダリストを育てるトップレベルでも同じだと思うのです。

 指導者や幹部が勝利至上主義に走り、選手を試合に勝つことだけを目指す“スポーツ人間”に育てることは、「正しいスポーツのあり方」とはかけ離れた育成方針であると私は思います。

 日本一になった先、あるいはオリンピックでメダルを獲得した先には、何があるのでしょう。努力して世界記録を出した先に、何が待っているのでしょうか。

 どんなに偉大なアスリートも、いつかは競技を引退して、競技者ではないセカンドキャリアを歩まなければいけません。そのときになって、「かつて世界一になった」という栄光をよりどころにしてふんぞり返り、結果を出すためには何をやってもいいと思うような大人になって幸せになれるほど、世の中は甘くありません。

 今回、ニュースで取り上げられた幹部や指導者たちは、自分たちが取った行動や言動で、そんな“スポーツ人間”を世に輩出してきたかもしれないということを深く反省し、いま一度、指導者とは何か、スポーツとは何かを考えるべきではないでしょうか。

学校のクラブ活動に、競技スポーツの考え方は不要では?

 もちろん、選手たちを立派な社会人に育てるべく、真っ当な教育をされている指導者はたくさんいるでしょう。そうした方々は、一連の暴力やパワハラ問題に腹立たしさを感じているでしょうし、本当にお気の毒に思います。

 また、こんなに情けない大人たちの姿をメディアを通じて目の当たりにしたことにより、選手(子ども)が指導者(大人)を信用しなくなる、という弊害が生じているかもしれません。両者の根底にあるべき信頼関係が揺らぐと、指導に過剰に反応してクレームに変える選手も出てくるかもしれませんし、そんな選手に対してうまく指導できないもどかしさから、思わず手や暴言が出てしまう…という悪循環も起こり得ます。

 そんな状況を回避するためにも、私は、学校のクラブ活動に関して言えば、競技スポーツというあり方は必要ないのではと考えています。クラブ活動はあくまでも、メンタル・フィジカルエデュケーション(保健と体育)の一環として捉えるべきで、心と体を育てるための基礎的な動きや考え方を教える場にすればいいのではないでしょうか。

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