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有森裕子の「Coolランニング」

有森裕子 東京五輪で見た「未来につながるレース」と「運営の問題点」

コロナ禍での東京五輪を振り返る・後編

 有森裕子=元マラソンランナー

マラソン女子の一山選手はもっと上を狙えたのでは

 五輪の閉幕直前の7日と8日には、男女のマラソンが開催されました。女子のレースでは、一山麻緒選手(ワコール)が8位に入り、2004年のアテネ五輪以来17年ぶりとなる入賞を果たしました。鈴木亜由子選手(日本郵政グループ)は19位、前半果敢に攻めた前田穂南選手(天満屋)は33位に終わりました。

 一山選手の入賞は素晴らしかったのですが、猛暑の中でスローペースの展開が予想され、コースの特徴をつかみやすい母国開催だっただけに、一山選手が最後まで先頭集団に入ってメダル争いに加われなかったのは、私個人としては少し残念でもありました。これまで積み重ねてきたレベルの高い練習内容や、2時間20分台の持ちタイムから見ても、メダル獲得の可能性は十分にあると私は考えていました。

 前田選手はケガの影響で練習できない期間もあって、万全の状態ではなかったと聞いていました。おそらく序盤はスローペースに合わせるのではなく、自分のペースで先頭を引っ張った形になったのだと思いますが、自分が思うほどついてはいけず、中盤以降は後退してしまったのでしょう。

 鈴木選手は、他の選手のペースの変化に惑わされないために後方に位置取りをしたようですが、まだ3回目のマラソンでは、そこから先頭集団にイメージ通りの入り込みをするのは難しかったのかもしれません。特に、猛暑で脱落していく選手が多い夏のレースでは、後方で先頭集団の様子を見ながら走り続けるとリズムに乗れないケースもあるので、先頭集団の中の後ろを走りながら粘る戦略もあったかなと思いました。

 一山選手は、位置取りは良かったものの、少し本来のパワフルな走りではなかったように思います。下半身の動きに重さを感じましたし、当日の気温や湿度は確かに高かったですが、あのスローペースで彼女がそこまでバテるとは思いませんでした。どの選手も、私の現役時代とは比べ物にならないハードな練習をして挑んだと聞いていましたので、この結果は少し意外に思いました。

五輪で結果が出せる選手とそうでない選手の違い

 五輪のような大舞台で結果が出せるか否かは、当日の気候やレース展開に対する順応力だけでなく、「自分は何を望み、それに対してどこまでやれるとイメージしているか」が大切です。このイメージがなされていればいるほど、順応力は高くなるのではないかと思います。

 今回の五輪は、猛暑で湿度も高く、コロナ禍で練習場所も限られ、思い通りの調整ができなかったかもしれません。しかし、例えば、2012年のロンドン五輪は、足場の悪い石畳のマラソンコースがいかに選手にとって不利かということが盛んに指摘されていました。しかし、蓋を開ければ、女子マラソンでは五輪新記録が出るほどの快走が見られました。どんな環境だったとしても、周りから入ってくる情報以上に、本人が何をイメージし、何を考えて走るかが大事なように思います。

 私自身の話をしますと、銅メダルを獲得した1996年のアトランタ五輪で、故・小出義雄監督からもらった指示はたった1つでした。

 「30kmを過ぎて1カ所だけ短い下りがある。そこはどんな状況でも飛ばせ。下り坂はお前の唯一の武器なんだぞ」

 私も納得したので、その指示を守りました。それ以外は、監督の指示を仰ぐことなく自分の意思で走りましたし、監督も私を信じて任せてくれました。頭の中にあったのは、「メダルの色は何色でもいいから、もう一度メダルを取って、自分の人生を自分の意志で切り開きたい」という強い思いでした。

 また、結果としてメダルを獲得できるか、もしくは自らの目標を達成できるか否かの分かれ目は、レース当日に、「いかに自分自身に気持ちを向け、自分が求めるものに集中できるか」ということも挙げられると思います。語弊を恐れずに言うと、「自分のために挑む」ということです。

 私自身、バルセロナでもアトランタでも、レース当日はひたすら自分に集中し、「自分の最高の走りがしたい、自分のためにがんばろう」と、ただそれだけを考えていました。コーチや家族など、今までお世話になった人たちへの感謝、その人たちに恩返しをするという思いは当たり前にある上で、本番では、その最高の表現をするために、ただひたすら自分のために走る。そのことが、自分を大事にしてくれた人たちに喜んでもらうことにつながると私は考えています。

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