東京マラソンの人気などを背景に、ランニング人口は2080万人に増加し、各種スポーツの中でも高い関心を集めています。特に20~40代の男性の参加が多い一方で、アスリートのような走りを性急に求めすぎた結果、故障をしてしまう人も少なくありません。そんな状況に危機感を抱くのは、五輪マラソンメダリストの有森裕子さん。トップアスリートならではの深いランニング知識を基に、楽しく長く走り続けるためのコツをお届けします。
8月に突入し、真夏日が続いていますが、夏バテなどしていませんか?
ランナーが夏に気をつけなければいけないことは、水分補給などの熱中症対策や、夏バテを防ぐ快眠、食生活です。前回は疲労を残さないための練習のポイントをご紹介しましたが(「猛暑に負けずに走力アップを図る秘訣」)、今回は真夏の体調管理に欠かせない食事の摂り方についてお話ししたいと思います。
冷たい飲み物や食べ物は内臓を疲れさせる
特に猛暑が続けば、食欲がなくなり、冷たい飲み物を大量に飲んだり、のどごしのいい冷製スープや冷やしうどんといった冷たいメニューばかりを選んでしまいがちになります。でもそれでは、内臓を冷やして機能を低下させてしまいます。内臓の機能が低下すると食欲はさらに減少し、栄養が足りずスタミナは落ちる…という悪循環に。そんな状態で高温の中をランニングすれば、たちまちダウンしてしまうでしょう。
夏バテを引き起こさないためには、「内臓」を疲れさせないことが大事です。内臓を疲れさせないようにするには、やはり冷たいものを控えること。アイスコーヒーや冷たいお茶をがぶがぶ飲むと、内臓は冷えた体を通常の体温に戻そうと働きます。この労力が大きいほど、内臓に負担がかかり、機能の低下につながるのです。冷たければ冷たいほど内臓は温度を上げようとするし、熱ければ熱いほど冷まさなければと働くので、なるべく常温に近いものを口に入れることをおすすめします。
アルコールは水分補給になりません
私は現役時代から、冷たい飲み物を飲むときに氷を入れないようにしてきました。今でもその習慣は継続しています。
かつて中国に訪問した際、タクシーに乗ると、運転手さんの側には、夏でも常温のお茶が入ったポットが置いてあり、飲食店に行くとビールも常温のものが出されました。それを見たとき、こうした文化の国の選手は内臓が強いだろうなと思ったことを覚えています。内臓が強ければたくさん食べられてスタミナもつくし、なかなかバテない。内臓を少しでも強くすることが、長い距離を走っても動じない体作りの土台になっていると感じます。

とはいうものの、走った後に常温のビールなんて飲みたくない、という気持ちも分かります 。キンキンに冷えた一杯のビールを楽しみに走っている人は多いでしょう。ただ、アルコールは水分補給にはならないことに注意してください。利尿作用があるので、たくさん汗をかいた後に飲むと脱水症状を引き起こす恐れがあります。
だからといってお楽しみのビールを飲むなというわけではありません。飲みたいのであれば、練習後、水分をきちんと取ってから居酒屋に行っていただきたいのです。そして、飲み過ぎは内臓を疲れさせる原因になりますから、翌日に疲れを残さない“ご褒美程度”にとどめましょう。枝豆や冷や奴など、アルコールの吸収をある程度ゆるやかにしてくれるたんぱく質を一緒に摂るといいと思います。
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