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有森裕子の「Coolランニング」

有森裕子 東京五輪マラソンは北大構内の直角カーブが勝負

「調整力」と「順応性」が実力を発揮できるカギに

 有森裕子=元マラソンランナー

実力を発揮するために必要なのは「調整力」と「順応性」

 さて、注目のマラソンは、女子が8月7日の7時、男子が閉会式のある8月8日の7時にスタートします。先日テレビの情報番組で、女子マラソンの鈴木亜由子選手(日本郵政G)の練習が紹介されていました。彼女はトラック出身で、マラソン挑戦わずか2戦で代表権を勝ち取った選手ですが、私の時代と比べても練習の質がとても高いのが印象的でした。

 例えば、3分20秒を切るスピードで1キロを走り、1分間のレスト(休憩)を入れて20本ほど走ります。私も現役時代は同じ距離でのインターバルトレーンングをしていましたが、もう少しレストの時間が長かったですし、そんなに速いタイムでは走れませんでした。ですから、スピードが持ち味のアフリカの選手たちに対しては、粘りで勝負するしかなかったのです。でも今は、鈴木選手だけでなく、男女ともに日本人選手の練習のスピードは明らかに上がっています。

 そんな質の高いトレーニングで身につけたスピードや持久力を五輪で発揮するためには、本番1カ月前からの調整期がカギになります。選手によって調整方法は異なりますが、通常ならきつい練習はせずに、疲れをきちんと抜きながら、筋肉に刺激を入れるスピード練習などのポイント練習を、計画通りに取り入れていく。そんな「調整力」が大事です。

 また、「順応性」も重要です。今回は母国での開催なので、飛行機での長時間移動や時差などの疲れはないですが、それ以上に、感染防止に気を配るストレスがあります。選手たちがいつごろ、どのような移動手段で北海道に入り、どのくらい自由に行動できるのかは分かりませんが、予想していなかったことや、やりにくさも出てくるかもしれません。また、どんなに入念に準備をしていても、レース本番では何が起こるか分かりません。そんな時に試されるのが順応性で、何が起きても冷静に受け入れ、対応できる選手ほど強さを発揮するでしょう。

テロに屈せず走り抜いたアトランタ五輪

 私自身は、五輪のレース中にアクシデントが起きて慌てた経験はありませんが、直前に想定外の出来事はありました。1992年に出場したバルセロナ五輪は、湾岸戦争の影響を受けて、コースがギリギリまで決まりませんでした。ただ、私自身に焦りはなく、どんなコースや条件でも受け入れられる覚悟ができていたので、自分の調子を整えることに集中して試合に挑むことができました。

 一方、1996年のアトランタ五輪では、大会7日目に、マラソンのコース上にある公園で爆破テロ事件が起こりました。のちに「リチャード・ジュエル」(2019年、クリント・イーストウッド監督)という題名で映画化されたこの惨事に、さすがに恐怖心がわいて動揺は隠せませんでした。そうはいっても、本番を目の前にして、「走らない」という選択肢はありません。自分でどうしようもできないことは考えずに、ただ目の前のレースに挑むことに集中しました。そんな気概や覚悟が持てるのが、五輪という大舞台なのだと思います。

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