32歳でのプロ転向は遅いのか?
今後、川内選手が誰かの指導を受けるかどうかは分かりませんが、五輪の舞台で本気で勝ちたいのであれば、ただ練習時間を確保するだけでは難しいと私は思います。今まで以上に追い込んだ練習は必須です。
また、先日のボストンマラソンは、天候や気温などのコンディションが悪い中での優勝でしたが、彼は寒い中でのレースには強いものの、暑さにはあまり強くない印象があります。8月の東京五輪で勝つには、やはり苦手な面を克服するための客観的なアドバイスも必要になるはずです。彼の強さをもっと引き出してくれるような練習パートナーや、彼の走りからさらなる発見をして的確なアドバイスをしてくれる指導者を、1日でも早く見つけることが、現状を打破するためのカギになるように思います。
プロになったがゆえにのしかかるプレッシャーも心配されますが、彼の強みは、応援してくれる人が絶えないことです。公務員ランナーとして、数々のレースに積極的に参加した下積みともいえる時期に、彼は不屈の精神を見せてきました。練習だろうが試合だろうが、真面目に全力でやり抜く意志の強さや、多くの試合に出場しても潰れないタフさは彼の強みであり、魅力でしょう。そんな彼の走る姿勢に心打たれた人は多く、圧倒的な人気につながっています。
公務員ランナー時代に培った財産は、プロになってもきっと彼の後押しとなっていくはずです。「32歳からのプロへの転向は遅いのでは?」という声もあるようですが、私は彼のこれまでの歩みを見ても、決して遅くないと思っています。
東京五輪のコースは、暑さと終盤勝負の耐久レースになると思います。もし彼が代表に選ばれた場合、世界各地のレースを経験した実績とプロとしての成長が、どのように勝負の走りにつながるのか、楽しみです。焦らずに挑戦していってほしいと思います。
(まとめ:高島三幸=ライター)
元マラソンランナー

1966年岡山県生まれ。バルセロナ五輪(1992年)の女子マラソンで銀メダルを、アトランタ五輪(96年)でも銅メダルを獲得。2大会連続のメダル獲得という重圧や故障に打ち勝ち、レース後に残した「自分で自分をほめたい」という言葉は、その年の流行語大賞となった。市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。2010年6月、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞した。