当然、誰からの応答もありません。絶体絶命のピンチ!と思った時に、遠くの方でかすかに人の声が。それは、ロープウエイから流れるアナウンス放送だったのです。「あ、帰れる!」と思った私は、その音を頼りに必死に進み、何とか無事に待ち合わせ場所にたどり着くことができたのでした。やっとの思いで合流したメンバーに、遭難しかけた恐怖を話したものの、笑いながら誰も信じてくれませんでしたが、あの時は本当に怖かった…。
こうしたアクシデントを防ぐためにも、トレイルラン初心者の皆さんは、上級者を交えた複数人でチャレンジしてください。あまり人数が多すぎると、登山者の方などに迷惑をかけるかもしれませんので、2~3人ほどの少人数がいいでしょう。1人1人の間隔を3~4mぐらい空けて走れば、前方にある木の根っこや石などの障害物なども把握しやすく、自分のペースで集中して走れます。5分ほどの時間差でスタートしてもいいかもしれませんね。
危険を回避するための準備が大事

トレイルランは準備も大事です。遭難しかかった時の私は、ウインドブレーカーを着用していましたが、Tシャツのみであれば寒さに襲われ、もっと早くに力尽きていたかもしれません。
山の天候は変わりやすいので、思わぬ雨や風をしのぐためにも、防水性と透湿性を兼ね備えた軽量のウインドブレーカーやレインウエアを小型のリュックに入れ、重くならない程度に水も持参するといいでしょう。
最近では、ビギナーにお勧めのトレイルランニングコースが紹介された書籍などが販売されています。インターネットなどでも紹介されていますのでぜひ調べてみてください。全行程が1~2時間で戻って来られる里山や低山を選び、できればコース全体を事前に把握しておくと、道の起伏を予測しやすく不安が軽減します。
トレイルランニングができる場所では、山頂までに売店や水場がある場合があるので、事前に調べておけば水などを持参せずに済むかもしれません。また、ライトや地図、時計、携帯電話、予備電池、補給食。また、帽子や日焼け止めなどの熱中症・紫外線対策、虫除けスプレーを使った虫対策もお忘れなく!
今は山の斜面で滑りにくくできているトレイルランニング用のシューズがあります。足を守るためにガッチリとしていて少し重量があるので、トレイルランニングした後に平地でマラソンシューズを履いて走ると、足がとても軽く感じますよ。
自然を満喫しながら体をほぐし、バランス感覚を鍛えられるトレイルランニングは、フルマラソンにも必ず役立つと思います。自然環境を壊さず、登山者に迷惑をかけないなどのマナーも心得ながら、安全に楽しんでください。
- 全身のバランス感覚を鍛える
木の根っこや石などの障害物があり、曲がりくねった凸凹のある不整地を走ると、脚の運びを複雑にコントロールすることが求められる。足首はもちろん、体を左右に傾けバランスを取りながら走ることで、体幹も鍛えられる。
- 体をほぐす
普段、硬いアスファルトの整地で練習している人にとって、山道の軟らかい地面をゆっくり走ることで、普段使わない筋肉や神経を使い、体がほぐれていく作用も。疲れてきたらウォーキングに切り替えたり、木陰で休んだりしてもOK!
- 暑さをしのぎ、精神も健康的に!
直射日光を防げる木陰がたくさんあるコースを選べば、夏場も比較的気持ちよく走ることができ、何よりも森林浴ができて気持ちがいい。山頂からの景色を楽しみに走ることができ、精神的にもリフレッシュしやすい。
(まとめ:高島三幸=ライター)
元マラソンランナー

1966年岡山県生まれ。バルセロナ五輪(1992年)の女子マラソンで銀メダルを、アトランタ五輪(96年)でも銅メダルを獲得。2大会連続のメダル獲得という重圧や故障に打ち勝ち、レース後に残した「自分で自分をほめたい」という言葉は、その年の流行語大賞となった。市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。2010年6月、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞した。