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有森裕子の「Coolランニング」

有森裕子 頑固な私と共に歩んでくれた恩師・小出監督

マラソン指導者・小出義雄監督の逝去によせて

 有森裕子=元マラソンランナー

 こうしたエピソードに代表されるように、私は、自分の意見をはっきり言っては、小出監督の手を煩わせていた選手だったように思います。ピロにとって小出監督は高校時代の恩師でしたし、Qはリクルートが強豪チームに育った後(1995年)に入ってきて、小出監督が移籍した際は自分もチームを移るほど、監督を慕っていた選手です。それぞれ、監督とつながった背景が異なり、能力も、性格も、活躍した時代も違いますから、監督への思いもそれぞれ異なるのは自然なことです。

 私にとっての小出監督は、「絶対的な師匠で、特別な存在」というよりは、「対等な関係で、同じ目標に向かって歩んでくれたコーチ」だったように思います。意見の相違でケンカすることは多かったですが、私の「五輪に出たい、メダルを取りたい」という強い思い、そして監督の「五輪選手を育てたい」という大きな目標があったからこそ、互いに割り切ることができ、メダル獲得につながったように思うのです。

データよりも指導者としての自分の目を信じる

 小出監督は、なぜ女子マラソンで4人もの五輪・世界選手権メダリストを育てることができたのでしょうか(*2)。それは常にしっかりした目的意識を持ち、選手と向き合う方だったことが大きいように思います。

 小出監督は、とにかく選手の練習をよく見て、脚の状態や表情まで細かく観察し、選手の言葉に耳を傾ける方でした。どんなデータがあったとしても、自分の目と耳で得たものを信じて指導されていたと思います。監督が予想したゴールタイムは、ほとんど的中していました。予想から大きく外れたのは、私のメダル獲得ぐらいではないでしょうか。

 言葉巧みに選手の気持ちを高めたり、不安を和らげたりすることも監督は上手でした。練習のしすぎで五輪選考会前に足が痛くなり、焦った私に、監督はこう言ってくれました。

 「物事には意味がある。どんなことが起きても“せっかく”と思いなさい。“せっかく”故障したんだから、神さまが休めと言ってくれているのだから、しっかり休もう」

 こう言ってもらえて気持ちが救われ、前を向いて治療に専念できたことを今でもよく覚えています。マイナスな出来事も、考え方一つでプラスに転換できるのだと。

 常に選手のことを考え、選手自身も忘れているようなタイムも覚えている、「かけっこ」が好きでたまらない小出監督。そんな方に共に歩んでいただいたこと、大きな目標を達成するために全力でサポートしてくださったことは感謝してもしきれません。本当に、小出監督と出会えたことは幸運でした。

*2 もう1人のメダリストは、2003年世界陸上女子マラソン銅メダリストの千葉真子さん。

(まとめ:高島三幸=ライター)

有森裕子(ありもり ゆうこ)さん
元マラソンランナー(五輪メダリスト)
有森裕子(ありもり ゆうこ)さん

1966年岡山県生まれ。バルセロナ五輪(1992年)の女子マラソンで銀メダルを、アトランタ五輪(96年)でも銅メダルを獲得。2大会連続のメダル獲得という重圧や故障に打ち勝ち、レース後に残した「自分で自分をほめたい」という言葉は、その年の流行語大賞となった。市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。2010年6月、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞した。公式Instagramアカウントはこちら

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