日経グッデイ

有森裕子の「Coolランニング」

有森裕子 コロナ禍でできる「おうちトレーニング」

人がいる場所でのランニングはマスク着用を心がけて

 有森裕子=元マラソンランナー

 新型コロナウイルスの感染拡大防止のための緊急事態宣言が出され、1カ月あまりが経過しました。コロナとの戦いが長期戦となる中、屋内で過ごす時間が増えて圧倒的に運動量が減り、体重が増えたり、運動不足を感じたりしている方は多いのではないでしょうか。やりたいトレーニングができず、うつうつとされている市民ランナーの皆さんも少なくないと思います。しかし、今は何よりも命が大事であり、コロナの収束へとつながる行動が第一優先になります。

ランニングは人の少ない場所・時間を選んで

 一方で、人間が心身の健康を維持するためには、体を動かすことは必要です。屋外での散歩やランニングは自粛対象に入っていません。外で散歩やランニンングをされる方は、人が少ない時間帯や場所を選び、できるだけ1~2人といった少人数で行動しましょう。ランニング中はできるだけ他のランナーや歩行者との距離をとり、周囲に人がいる場合は、マスクで口や鼻を覆う気遣いを、今この状況の中で互いにできることが大切かと思います。薄手で伸縮性のあるランニング用のネックゲイターなどを使ってもいいと思います。

 ただし、マスクをつけながら走ると、通常よりもわずらわしく、息が苦しくなることもあります。ですので今は、ロングランは普段よりも緩めのペースにして、心拍数をもう少し上げたい人はロングランの後に人がいない広場などで、マスクを取り、短い距離をダッシュする練習を数本入れてもいいでしょう。普段とは違った形の負荷をかけたトレーニングができると思います。そして家に戻ってきたら、必ず手洗いをしっかりしましょう。

 私自身はランニングのイベントが中止になり、外で走ることは少なくなりました。しかし、役所に行くなど必要な用事があるときに、ぐるっと遠回りしながら散歩をして気分転換しています。人通りが少ない早朝などの時間帯に、家の近くにある急な坂を上り下りし、心拍数を上げつつ、のんびりと足腰を鍛えようかなとも思っています。

「おうちトレーニング」を生活習慣に組み込もう

 外出自粛要請が出てからは、「おうちトレーニング」にも注目が集まっています。外で走れない日々が続く梅雨どきと同じように、今は体力づくりの期間だと気持ちを切り替え、家でできるトレーニングに取り組むことも大事だと思います。トレーニングといっても筋トレやストレッチ、有酸素運動などさまざまですが、可能な限りバランスよく行いたいものです。

 この連載でも以前紹介しましたが、ランナーの場合は、走るために必要な足腰まわりを鍛えることが大切です。その中でも有効なのがスクワットです。両足を肩幅よりやや広めに広げて立ち、重りを持たずにゆっくり腰を落とします。このとき背中を丸めず、膝がつま先よりも前に飛び出さないようにしましょう。まずは、10~15回2~3セットを目安に始めて、少しずつ増やしていけばいいと思います。

スクワットは「おうちトレーニング」の代表選手です。(C)ICO-123RF

 仕事や生活習慣に組み込めるトレーニングもあります。例えば、歯磨きをしながら片足立ちをすれば、脚全体を鍛えることができます。料理をしながらつま先立ちをし、疲れたらかかとを地面につけ、再びつま先立ちを繰り返せば、ふくらはぎが強化できます。

 いすに座りながらできる腰回りや太ももの裏のトレーニングもあります。座ったまま、かかとを上げて太ももを持ち上げ、太ももの裏が座席につかないように、10~20秒ほど膝を浮かせます。デスクワークの合間にできるトレーニングです。同じく座ったまま両膝の間に雑誌などを挟み、そのまま内側に10秒ほど力を入れると、太ももの内側の筋肉が鍛えられます。

 おへその下の丹田(へそ下7.5cm~9cmぐらい)の部分に10~15秒ぐらい力を入れるように意識して、それを5回ほど繰り返せば、腹筋を鍛えるトレーニングになるでしょう。

 このように生活習慣にうまくトレーニングを取り入れ、完了したトレーニングをノートやボードに記録して「見える化」したり、家族で一緒に体を動かしたりすると、いつもと違うトレーニングになって楽しくなってくるのではないかと思います。

おうちトレーニングの相棒は「スライドボード」と「ぶら下がり器」

 実は先日、新しいトレーニング用品を購入しました。それは、「スライドボード」「ぶら下がり器」です。スライドボードは、スピードスケート選手のように低姿勢で左右に横滑りする運動ができるものです(写真左)。1日中家にこもる生活が続くと股関節の可動域が狭くなりがちです。そんな股関節を大きく動かすために使いたいと思っています。

アスリートの愛用者も多いスライドボード。エクササイズ用シューズを履き、その上から専用のカバー(写真中央)を装着すると、ボードの上で滑らかに足を動かせます。
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届いたばかりのぶら下がり器。自重を利用して背骨や背中周りの筋肉を無理なく伸ばすことができます。
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 ぶら下がり器(写真右)は、棒にぶら下がることで背骨や背中周りの筋肉を無理なく伸ばすことができます。自重を利用した、体幹の関節を緩めるストレッチになります。以前から背骨や腰骨が詰まっているような違和感があり、調子もあまり良くありませんでした。今まで忙しくてなかなか整骨院やピラティスなどに通えなかったので、外出自粛要請で時間が生まれたタイミングで、何とか家で改善できないかと思って購入しました。

 リモートワークが続いて、長時間座りっぱなしの人や、ノートパソコンに向かいながら猫背になってしまっている人も多いように思います。そうした人たちにとっても、背中を伸ばすことは大事だと思います。わざわざ「ぶら下がり器」のようなものを購入しなくても、お風呂上がりに寝転がってグッと伸びをしたり、家族に足首を軽めに引っ張ってもらいながらゆらゆら左右に揺らしたりすると、日常生活で縮こまっていた背中周りの筋肉が伸びて気持ちがいいですよ。

 ストレッチ用のポール(円柱状の硬めのクッション)があれば、それを背中と床の間において、左右にゴロゴロ転がすのもいいでしょう。フェイスタオルの両端に結び目を作って左右の手の親指をひっかけ、そのまま首の後ろに持っていくのも、手軽な肩甲骨のストレッチになります(写真)。

タオルを使った手軽なストレッチ。両端に結び目を作り、親指をひっかけて首の後ろに持っていきます(写真は有森さんがFacebookで公開した動画から)。

 自宅でなかなかできないのが有酸素運動ですが、ランニングほどの強度はないにしても、踏み台昇降はオススメです。踏み台昇降用のステップ台があればそれを使って、なければ、家の中にある10~30センチの段差を使って取り組むのもいいかもしれません。ケガを防ぐためにも、体重をかけても壊れない台を使うようにしてください。また、自宅やマンション内に階段があれば、それを上り下りするのも有酸素運動になります。

適度な運動で、免疫力を低下させないことが大事

 最近は、エクササイズが楽しめるゲーム機器や、エクササイズを指導してくれるオンライン動画などもありますので、そうしたものを利用して、筋トレやヨガ、ラジオ体操、ダンスなどにトライしてみてもいいと思います。

 ただし、張り切りすぎには注意が必要です。生活環境がガラリと変わり、「コロナうつ」という言葉が出始めているぐらい、自分でも気づかないうちに不安やストレスを抱えている人は増えているはずです。そんな時に自分を追い込むような激しい運動をすると、精神的な疲労とトレーニングによる疲労が重なって、免疫力が低下する恐れも考えられます。新型コロナウイルス感染症にかからないため、あるいは、かかっても重症化しないためにも、今は免疫力を上げることが大事です。規則正しい生活や、バランスの良い食事、睡眠をしっかりと取って、その上で適度な運動を心がけるようにしましょう。

(まとめ:高島三幸=ライター)

有森裕子(ありもり ゆうこ)さん
元マラソンランナー
有森裕子(ありもり ゆうこ)さん

1966年岡山県生まれ。バルセロナ五輪(1992年)の女子マラソンで銀メダルを、アトランタ五輪(96年)でも銅メダルを獲得。2大会連続のメダル獲得という重圧や故障に打ち勝ち、レース後に残した「自分で自分をほめたい」という言葉は、その年の流行語大賞となった。市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。2010年6月、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞した。